quint starkie

これはこれは北欧でヒッソリとリリースされていた隠れ好盤(オリジナル・リリース 2016年)が、我が Light Mellow Searches によって、いよいよ日本初登場となる。そのアーティストは、何と在スウェーデン30年の英国人シンガー・ソングライター:クイント・スターキー。現地アメリカではあまりもう聴くことができなくなった良質のウエストコースト・サウンドを、今に届けてくれる逸材だ。

その音はAORというよりも、どカントリーやジャズに寄らず最も都会的でコンテンポラリーな歌を歌う時のジョン・メイヤーに近い。加えてオープニング・チューン<Where I Belong>などで聴けるアコーステック・ギターの繊細な響きは、フリートウッド・マック全盛期のリンジー・バッキンガムの楽曲を想起させる。新しいところでは、やはり Light Mellow Searches でご紹介しているヴェニス。レノン兄弟4人からなる彼らは、米本国ではまったく無名の存在ながら、オランダ中心にヨーロッパでは大人気だ。もちろんイーグルスやアメリカ、ジャクソン・ブラウンらのテイストもそこはかとなく…。ちょうどヨット・ロックという言葉が日本の音楽シーンにも入り込んできているけれど、米国的解釈の懐メロでも、日本の解釈である打ち込み可能のシティポップでもなく、コレが言葉本来のヨット・ロックでしょ?と思う。

元々ギター弾きであるクイントは、幼くしてチェット・アトキンスやアルバート・リーといったカントリー・ギタリストに憧れ、ティーン・エイジャーの頃はクラシック・ギターのレッスンを受けつつ、バンド活動に邁進。レッド・ツェッペリンやボストン、スティックス、ジャーニー、TOTO、ボブ・シーガー、イーグルス、10cc、スーパートランプ、ELO、ロッド・スチュワートなどに影響を受けた。最も強くインスパイアされたのは、ダイアー・ストレイツ/マーク・ノップラーとアル・スチュワート『YEAR OF THE CAT』(76年)。ギタリストではスティーヴ・ルカサーやラリー・カールトン、マイケル・ランドウに影響された。86年にハリウッドのミュージック・インスティチュートに入学。ウィスキー・ア・ゴーゴーやラスヴェガスのシーザーズ・パレスなど有名スポットのステージに立っている。卒業後はガールフレンドの故郷ストックホルムに移住し、スタジオ・セッションやアレンジ仕事をこなして現在に至るそうだ。彼が手掛けたジングルが、スウェーデンの年間最多オンエア楽曲になったこともあるし、ジュリア・ロバーツ主演の映画『ベスト・フレンズ・ウェディング(原題:My Best Friend's Wedding)』のサウンドトラック曲<Always You>も彼の作品だという。

ソロ・アルバムを作ったキッカケは、英国の人気プログレッシヴ・バンド:イット・バイツにいたフランシス・ダナリー(vo,g)と知り合い、強力なサポートが得られたこと。ベストな作品、オーセンティック(本物)なアルバムを作ろうと、自分の私的物語をテーマにした。前述の通り、音は米西海岸風のオーガニック・スタイルで、曲によって少しカントリー・フレイヴァーが漂うものの、如何にも大陸的な土埃が音から舞い立ってくることはなく、若干のウェット感がある。繊細なヴォーカルも、それを増幅していてナイス。それこそ楽曲によっては、10ccやスーパートランプ、マイク&ザ・メカニクスといった英国勢を思わせるトラックもある。そのバランス感が北欧ならでは、なのだ。

ダナリーを除けば、特に著名ミュージシャンが参加しているワケではない。でもこのウォームな感じ、ちょうど風の色が急速に醒めていく日本のこの季節には、ジャスト・フィットするはず。ちなみに彼は現地プロ・ミュージシャンが趣味で組んでいるペイジス・トリビュート・バンドのリード・シンガーを務めているそうだ。