abbey road deluxe

ビートルズ『ABBEY ROAD』50周年記念の Super Deluxe Edition が我が家にも。ついでにタワーレコードのウェブサイトで展開中の『アビイ・ロード』50周年&映画「Yesterday」公開記念特集【○○××が選ぶザ・ビートルズセレクション】にもお声掛け戴き、アンケートに参加させていただきました(こちらを参照⇨金澤寿和(音楽ライター)が選ぶザ・ビートルズセレクション

タワーのアンケートにも書いたが、『ABBEY ROAD』は自分にとって2番目に聴いたビートルズのオリジナル・アルバム。ベスト盤の赤盤・青盤が出て間もない頃に友人の家で初めてビートルズを聴き、ラジオなどで耳馴染みのある曲が多かったことから静かな衝撃を受け、そこからビートルズのシングルを蒐集。ある程度の段階でLPを買い始め、最初に手にしたのが『LET IT BE』、そして次が『ABBEY ROAD』だった。カナザワが中学2年、1974年のことである。ビートルズ解散後のメンバーたちも、当時は競うように積極的なソロ活動を展開していた。

最初に聴いたのがグズグズの『LET IT BE』だったこともあってか、このアルバムの構築美には息を飲んだ。個性的な楽曲の数々、見事な配置。その集大成がアナログB面のメドレーだった。しかも最後にオマケにように付いてきた<Her Majesty>が、メンバーのユーモアや本音を象徴しているようで、微笑ましかった。エンジニアのミスでそこに貼り付いてしまった、なんて裏事情は、ずーっと後になって知ったことだ。

ビートルズのアルバムから何か一枚、と言われたら、カナザワは間違いなく『ABBEY ROAD』を選ぶ。次点が『REVOLVER』かな。世界的に代表作とされる『SGT. PEPPER'S...』はまずコンセプトありきで、収録曲のポテンシャルに凸凹が多いし、『WHITE ALBUM』はバンドとソロ楽曲の寄せ集め。興味本意で音に向かっていく創造曲と自由度はスゴイし、それ故に『WHITE ALBUM』を愛するオルタナ系リスナーが多いことも理解しているけれど、自分はやはり完成度の高さを求めてしまうな。アグレッシヴな<Come Together>に続いて甘美なラヴ・ソング<Something>、怪奇な歌詞を楽しく歌う<Maxwell's Sliver Hammer>、ブルージーなパワー・バラード<Oh! Darling>にオトボケ・カントリーの<Octopus's Garden>、そして超ヘヴィ・ブルース<I Want You>が終わって盤をひっくり返すと、黒い雲の向こうから<Here Comes The Sun>が流れてきて、そして荘厳な<Because>と続く…。まさに完璧なソング・オーダー。ある意味、自分がAOR好きになったのも、『WHITE ALBUM』ではなく『ABBEY ROAD』を愛す、という嗜好性から来ているのかもしれない。きっと『WHITE ALBUM』だって、好きな曲だけ抜き出して1枚モノにまとめたら、かなり印象が変わってくると思う。もちろんトライアルとしての『WHITE ALBUM』があったからこそ、『ABBEY ROAD』ができたのは確かだけれど。

『ABBEY ROAD』が素晴らしいアルバムになった原因のひとつは、間違いなくジョージの成長。ジョンとポールという2人の天才、マスコット的ポジションに立つリンゴに挟まれた強運の凡人ジョージは、結果的に “第3の男” を気取るしか選択肢がなかった。だから自分の声の弱さ、音域の狭さ、ギター・プレイの拙さを克服するべく努力と研究を重ね、独自のコード進行を編み出して、やっと名曲を書けるようになった。インド音楽への傾倒、シンセサイザーの使用、クラプトンやビリー・プレストンといった外のミュージシャンの起用など、グループに革新の芽をもたらしたのは、いつもジョージ。それは他の3人に自分の存在をアピールする行為でもあった。

さて、今回の『ABBEY ROAD』50周年エディション。2019リミックスの聴き比べに関しては、アチコチで専門家が書かれているので、それらをご参考に。カナザワは5.1chミックスが目的で Super Deluxe Edition を選んだけれど、今回は比較的オーソドックスなマルチ・ミックスだと感じだ。でもそれもそのはず『ABBEY ROAD』は、『SGT.』のようなオモチャ箱的音像でも、『WHITE ALBUM』のようなトライ&エラーのドキュメントでもなく、必要不可欠の音だけを吟味にして構築した作品だから。それでも音の広がり方は壮大で、今まで聴こえてこなかった音に気づかされたり、ダビング・パートが手に取るように分かる部分があったりと、発見は少なからず。個人的には、このアルバムに於けるコーラス・パートの重要性を再認識した。それこそ、<Because>だけじゃないんだよな。だから時間を掛けて聴き込んでいけば、それだけアルバムとしての面白みが倍増するのは間違いない。

この Deluxe Edition でCD2枚分を取っているセッションズは、アルバム収録曲だけに関わらず、この『ABBEY ROAD』セッション全体からピックアップした楽曲をカレンダー通りに並べたもの。だから楽曲の進化のプロセスやスタジオ内の模様などが覗けて、マニアにはこの上なく楽しいし、バンドや宅録をやっている人には格好の研究材料になる。ただ普通のリスナーは、2〜3度聴いて様子が分かれば、それで満足してしまう気も。ならば1CDや2CDエディション(Disc 2は本編収録全曲のアウトテイクやデモを同じ曲順で収録)を購入して、全編はストーリミングで試聴するのが正解かも。

今や普通にビートルズを知らないミュージシャンが続々デビューしてくる時代。でもジャンルを超越して圧倒的に面白く聴かせてくれるアーティストは、ほぼ皆無と言って良い。多様化の極みに達したこれからの音楽シーンに求められるのは、ビートルズのようなスーパー・ヒーローなのかもしれないな。