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角松敏生のスペシャル・ライヴ・ツアー『お前と俺 vol.3』を観るため、首都高を飛ばして都心を越え、久々に川崎へ。開場まで少し時間があったので、駅に程近い老舗の中古レード屋を覗きに行く。都内のレコ屋は最近は外人が占拠しているし、どこも似たような品揃えになってしまったけれど(しかも高価)、ココはずーっと昔のまま。店内に入った途端、昭和にタイムスリップしたような感覚に襲われた。店主がジャズ好きで、在庫の6〜7割はジャズのアナログ。残りがロックやソウルと邦楽になる。驚くような掘り出し物はなかったが、モーズ・アリソンがチャック・レイニーやビリー・コブハムと演ってる71年モノと、ヴァン・マッコイの定番『HUSTLE』の帯付き美品など数点購入。ヴァン・マッコイは18日のスティーヴ・ガッド・イベントで使おうっと。会計を済ませ、クラブ・チッタ川崎へ移動。最近はプログレ系のブッキングが多く、その筋には “プログレの殿堂” みたいな存在になっているチッタだけど、AORにもこういうハコがほしいところ。ジノ・ヴァネリとかマイケル・マクドナルドとか、「日本へは行きたいけど、1日2ショウはノー・サンキュー」というアーティストが多いのだ。

(以下ネタバレあり)

さて、この『お前と俺』ツアー。フル・バンドでは行けない地方都市を、コンパクトなデュオ編成で回ることを目的に、10年代半ばからスタート。300〜500人程度の小バコを中心にしたローカルなパッケージ・ツアーで、それが意外に好評だったため、昨年から秋のツアーとして定着することになった。でも都心では組まれないから、過去2回は足を運ぶこと叶わず、今回がカナザワにとって初『お前と俺』。今まで観た中では、2年前にやった『ODAKYU SOUND EXPRESS 10th Anniversary SPECIAL LIVE@下北沢GARDEN』のフォーマットが近く、今回同様、森俊之さん(kyd)との2人でPCを鳴らしながらプレイしていたけれど、あの時は『SEA IS A LADY 2017』ツアーのスピンオフ的ニュアンスがあったから、やはり別モノとして観るべきだろう。

音楽的には、アルバム制作に使ったマルチ・ミックスをPCに落とし、そこから必要な音、欲しい音だけを鳴らして、そこに角松のヴォーカルとギター、森さんのピアノや鍵盤をナマで重ねるのが基本。もちろんライヴ用に、多少の音の抜き差しや加工を施しているだろうし、サウンドチェック時に会場ごとの音響特性に合わせて調整しているとも語っていた。今ドキのアーティストならライヴで同期を走らせるのは当たり前とはいえ、聴衆の面前でマルチ・ミックスを再構成して聴かせる、なんてコトをしているのは、角松だけのはずだ。すなわち曲ごとに村上ポンタ秀一もスティーヴ・ガッドもジョー・サンプルも、今は亡き青木智仁、ブッチャー浅野祥之も、オリジナルを演奏している人なら誰でもみんな擬似共演が可能なのである。

しかし一方で限界もある。マルチ音源を使うのだから、著作権利上、角松自身がそれを自由に使えるものでなくてはなない。自分の作品だからといって、なんでも許されるワケじゃないのだ。彼の場合、デビュー当時から現在までず〜〜っと所属レーベルを変えていない稀有なアーティストなのだけれど(BGMからソニーになったのは会社統合によるもの)、音源権利はまた別の話で、本人の自由が利かない作品もある。それ故、今回ステージに掛けられるのはデビュー直後と、活動再開後の楽曲(旧曲セルフ・カヴァーはアリ)に限られた。

そうしたライヴの内容説明を、ステージに登場してすぐ挨拶がわりにおっ始め、1曲も歌わないまま20分近くの講釈。普通のライヴじゃ考えられないコトだが、演出らしい演出がないこのツアーでは、それが演出のひとつになっている。要するに、このクラブ公演ならでの親近感、距離の近さから、ぶっちゃけトーク炸裂。MCでも堂々「このツアーはよく喋るのが特徴!」と宣って、目についた人をいつになくいじり倒したりも オーディエンスも通常ツアーよりコア・ファンが多く、それが難なく成立するってワケ。イヤむしろ、この空気感を角松・お客さん両方が楽しんでいる感じか。

セットリストは以下の画像の通りで、00年以降の楽曲、それもあまりツアーで演っていないナンバーが多い。実際キーが高いので歌うのを敬遠してきたのがいくつかあるそうだが、敢えてそれにトライするのも、このツアーの醍醐味。…にしても、ちょくちょくPCのモニターに目を遣り、必要ならマウスを探りながら歌って、更にギターも弾く。時に操作に気を取られてヴォーカルがおざなりになったりしたけれど、ホントにちょこまか忙しそうだ。そのクセ、次の曲を出す時などPCが考え込む一瞬もあったりして、軽く踊って場を凌ぐ。あぁ、スリルがあるから「秋の旅情サスペンス」なのね。実際Vol.2の時だったか、PCがトラブって大変だった公演もあったと聞くから、角松自身の負担はハンパじゃないだろう。

マスター音源を使うというコトで、07年『PLAYERS PRESENTS...』(巻き帯の楽曲解説をカナザワが書いてます)から森さんプロデュースの<海 -The Sea>、故・松木恒秀の思い出を語りつつ彼のイブシ銀のギターをフィーチャーした<Friends>、職人ドラマー:ジョン・グェラン(LAエキスプレス、マイケル・フランクス、ジョニ・ミッチェルなど)を起用したファンク・チューン<煩悩Rolling Stone>、ブッチャー浅野のギター・リフのアイディアを取り込んだ<主張#1>など、レコーディングの参加ミュージシャンに関するエピソードもふんだん。この<主張#1>からは、角松バンドのレギュラー・ベーシスト山内薫がゲスト参加し、ラストへ向けての疾走を協力バックアップした。もちろんPCのオケでも充分にノレただろうけど、やっぱりナマのベースが入るとグルーヴ感が加速度的にアップして、プレイに弾力感、しなやかなコシが加わる。スタジオだと打ち込みには打ち込みならではの魅力があるけれど、ことライヴに関しては、やはりナマが強い。いくら音量を上げても、オケには絶対に追いつけないギャップがあると実感した。

本編ラストの<浜辺の歌>やアンコール曲は、いつもより軽めな印象。反対に<Cat Walk>は、ファン限定サイトで「コーラス・パートをみんなで歌って!」と書き込んだところ、イイ歳したオッサン、オバ様たちが猫ミミの被り物や肉球付き手袋をつけて踊るようになった。しかもこのマニアックなツアーなら、残り6公演、笑える化け猫 たちの大増殖もありそう。当の角松もそれを楽しんでいるようだ モア・アンコールの<Ses You Again>では、若干高音が出しくそうな仕草を見せたものの、今ツアーのハイライト、チッタ公演はつつがなく終了した。

バックステージには、先日の小林信吾ライヴで憧れの角松との初共演を果たした期待の若手ドラマー:伊吹文裕クンも来ていて。森さんには「音数が少ないので、<No End Summer>のピアノ・リフの変化がよく分かりましたよ」と伝えたところ、「ホント? そうなのよ、<What A Fool Believes>っぽくしちゃったの」なんて。それでも「このツアー、大変だけど楽しいのヨ〜」と人懐っこい笑顔で話してくれたのでした。

来年は『REBIRTH 2』、そして再来年は40周年。イヤイヤ、その前に12月の恒例年末ライヴが楽しみ。

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