chicago xmas

かつてない規模の大型台風が今週末の三連休を直撃、ということで、世間がやたらバタついてますが。かくいう自分も、足を運ぶ予定のライヴが中止になったりしていて。ココは静かに部屋に籠り、急に飛び込んできた原稿執筆やイベント準備など、やるべきコトを片付けておこう。そんな時に舞い降りてきたのが、またまた、そう、またまた登場した、シカゴのクリスマス・アルバムだ。

シカゴによるクリスマス・アルバムは、これが4作目。海外の人気アーティストの多くが当たり前のようにX'Mas作品を作るようになった今、シカゴの50年の歴史での4作ならば、あまり多いとは思わない。でもシカゴの場合、正確には、98年作『Chicago XXV - The Christms Album』からの20年で4枚。しかも同じ期間に制作〜発表したオリジナル新作は、06年『CHIOCAGO XXX』、14年『CHICAGO XXXVI』しかない。オリジナル新作の2枚に対し、クリスマス・アルバム4枚。はぁ〜、オマエらはCCM(コンテンポラリー・クリスチャン)のバンドか、ってなモンである。そのほかも新旧ライヴ盤、ベスト盤にバラード集、未発表アルバムの蔵出しにセッション・アルバムなどの企画モノばかり。最近リリースされた『LIVE VI DECADE LIVE』やサウンドステージ系のライヴ盤が、シカゴ名物のアルバム番号にはカウントされていないのは、せめてもの良心? だからこのX'MAS盤が37枚目とされるのは納得だけど、一方でシカゴ交響楽団とのシンフォニック・ライヴ『CHICAGO AT SYMPHONY HALL』(15年)が、音質の問題から予約分だけ消化されてそのまま発売中止になってしまったのが残念(スゴいプレミア価がついてます)。面白い企画だったので、音の問題が出なければ、コチラが37枚目にナンバリングされた可能性もあり、いつかリヴェンジを期待したいところだ。

4枚のクリスマス盤のうち、最初の『Chicago XXV - The Christms Album』は、トラディショナルやスタンダードな聖夜曲集。プロデュースがブルース・スプリングスティーンの参謀ロイ・ビタンで、企画作としては上々の成績を収めている。このアルバムは元々自主レーベルから発売されたが、Rhinoが権利を買い上げて02年に再発。それなのに翌03年には、『Chicago XXV』にフィル・ラモーンのプロデュースによる新録X'mas定番6曲を追加した『CHICAGO CHRITMAS - What's It Gonna Be, Santa?』が発表されたからナゾ… 更に11年には、またしてもフィル・ラモーン制作で『O CHRISTMAS TREE』をリリース。これもトラディショナルやスタンダードが中心だったが、アメリカやドリー・パートン、ビー・ビー・ワイナンズ、スティーヴ・クロッパーをゲストに迎えたり、ポール・マッカートニー<Wondeful Christmas Time>やジャスティン・ティンバーレイクのX'masソングをカヴァーしていて、なかなか練られた内容になっていた。

前にも書いたが、そもそもカナザワは、X'masアルバムがあまり好きではなくて…。オリジナル書き下ろしなら良いが、安易にスタンダードやトラディショナルを歌う、しかも弦カルやオーケストラと一緒に、とか、パーティ・スタイルで、なんてありきたりの企画が多く、ただのファン・サーヴィスとしか思えぬシロモノが氾濫している。シカゴの場合も、最初の2枚はその傾向が色濃く、「オ、コレは!」と思わせてくれるトラックは多くなかった。3枚目の『O CHRISTMAS TREE』は確かに企画盤として工夫があったものの、同時にお気楽な楽曲も少なくなくて…。聖夜アルバムに過大な期待をするなというのは間違っちゃいないけど、オリジナルを2作しか出していないバンドがX'Masのような企画モノばかり出すのは、やはり創作意欲の減退を示しているとしか思えない。

しかもシカゴの場合、ここ数年はメンバー交代が激しく、結成メンバー3人を除くと、80年代に活躍したメンバーたちはもう誰もいなくなった。つまりロバート・ラム、ジェイムス・パンコウ、リー・ロックネインの次の古株は、今や93年に参加したキース・ハウランド(g)なのだ。ビル・チャンプリンの後任に抜擢されたルー・パーディニという才能だっているのに、ツアーに明け暮れ、アルバムを作ったって企画モノばかり。これでは若いメンバーのストレスは溜まる一方だろう。もちろん彼らも、何処かで「仕事」と割り切っているだろうが、ラムやパンコウのバンド運営には、どうしたって疑問が残る。

そこへ来て4たび登場の聖夜盤。なので最初にニュースを知った時は、ハッキリ言ってゲンナリした。がよく見れば、今作は書き下ろしの新曲を大々的にフィーチャーしているとのこと。オマケにプロデュースを手掛けたのは、オリジナル・メンバーのリー・ロックネインだ。今回のレコーディングはスタジオではなく、最新鋭のモバイル機器をツアーに携帯し、ショウのサウンドチェックの合間や、ホテル、ツアー・バスの中で録音したそうで、メンバーがセルフ・プロデュースする必要があった。でもそれを引き受けたのは、ラムとパンコウの影に隠れていたリー。でも近年のリーは地味ながらなかなかイイ仕事をしていて、近作でもちょっと存在感を増した感があった。<Sleigh Ride>は『CHICAGO CHRITMAS - What's It Gonna Be, Santa?』に続いて2度目の収録ながら、これもリーのアレンジによる新ヴァージョン。ベンチャーズのジョン・ダリルと2曲共作し、うち1曲の<Merry Christmas, I Love You>は、R&Bとバラードの2ヴァージョンで収録している。曲作りはあまり得意ではないが、アレンジのアイディアはどんどん浮かんでくる、というのが、今のリーかもしれない。

それに対して、従来のメインライターであるラムは、ビーチ・ボーイズ一派のビリー・ヒンシュ、メンバーのルーと1曲ずつ共作しただけ。ルーとのメロウ・ボッサ<I'd Do It All Again (Christmas Moon)>はメチャ良い曲だけど、書き下ろしがリーより少ないのはチト寂しい。とはいえジャッキー・デシャノンがヒットさせたバカラック・ナンバー<What The World Needs Now Is Love(世界は愛を求めている)>を新感覚でカヴァーしていて、実力のほどを見てつけている。でもパンコウは、ブラス・アレンジでは活躍しているものの、楽曲提供は、やはりルーとの<I'm Your Santa Clause>だけでガックリ。

改めて今回のX'Mas盤全体を聴き通すと、何処かホンワカした、マイルドなムードに包まれていることに気づく。病気でリタイアしたウォルター・パラザイダー(sax)と交代したレイモンド・ハーマン、短期間で脱退したジョン・コフィ(b,vo)の後任シンガー:ニール・ドネルと、新メンバーの楽曲を即採用しているのも珍しく、それはきっとリーの人柄が反映された結果だと思える。オマケにドネルの<All Of The World>の共作者が、スティーリー・ダン・フォロワー最右翼のモンキー・ハウスの首謀者ドン・ブラウトハウプトで、これまたビックリ。そこで調べたら、ドンが別に組んでいるシカゴのカヴァー・ユニット:Brass Transit のヴォーカルが、このニールだった。…というワケでうまくまとまったな

シカゴ・ファンには少々耳の痛いコトも書いたけど、ヒットが多くてスケールがデカいだけのノスタルジックなドサ周りバンドになって欲しくない、というのが、シカゴに対するココ20年の変わらぬ想い。X'mas盤なんてリーに任せておけばイイ!なんてコトを言ったかどうかは分からないが、オリジナル新作ともなれば、このままラムやパンコウが引き下がっているとも思えない。でもこの企画盤を聴くと、リーの存在が何かのカギを握っているような気がしてしまうな。