sano motoharu_autumn

デビュー40周年を来年に控えた佐野元春の、今の心情を素直に伝えるシンガー・ソングライター・アルバム。発表されたタイミングもあるだろうけど、コレがシットリと染み入る優れた内容なのだ。以前に配信リリースされていた楽曲のリマスター/別バージョンが4曲と、純然たる新曲4曲の計8曲入り。最近はコヨーテ・バンドを従えて攻めのアルバムを作っていた彼は、そこにフィットしなかったマテリアルを配信で世に出したり、あるいはその構想を温存してきた。それをデビュー40周年前に整理したのが、この『或る秋の日』である。

こうした表現をすると、書きためた楽曲の在庫処分か!?とツッコまれそうだけど、それはまったくもって正しくない。いわば、“本音と建前” のうち、ずっと心にしまってきた本音の部分を、包み隠さずにそのまま吐露した感覚。あるインタビューで彼はそれを “大人のロック” と表現した。音楽スタイルではない、イイ歳になったからこそ書くことができる、そして歌うことができる、オトナのための愛の歌。

AORという音楽に深く接していると、ヤヤこしいコード進行だとかハイブリッドなリズム構成、歌や演奏のスキルや表現力など、そうしたサウンド・フォーマットに耳を奪われやすくなる。でもそれはあくまで伝達手段。まずは表現する側が、何を思い、伝えたいのか、それがシッカリ伝わってくることが何より大事。そこにリアリティを与え、より伝わりやすくするのが、アレンジであり演奏の役割である。

佐野はココに収めた曲たちを、押しの強いバンド・サウンドではなく、より親密で、聴き手の日常にそっと寄り添うモノにしたかった。その歌と音が、いま耳に優しく響いている。