jason scheff

元シカゴで、ピーター・セテラの後を引き継いだリード・シンガー/ベース・プレイヤーのジェイソン・シェフ。彼のシカゴ脱退が発表されてちょうど3年が経つが、このタイミングでグループ在籍中の97年作『CHAUNCY』以来となる2nd ソロ・アルバム『HERE I AM』が緊急リリースされた。内容的には、シカゴ・ファンなら黙って納得できるハイ・レヴェルな一枚。でもクリティカルな目で見ると、果たしてコレで良いのだろうか?と、その有り様、作品の方向性にひと握りの疑問を持ってしまうアルバムでもある。

収録曲は全10曲。そのうち5曲を、<Will You Still Love Me?><Look Away><Feelin' Stronger Everyday><What Kind of Man Would I Be?><Hard to Say I'm Sorry>と、シカゴの新旧カヴァー曲が占める。アレンジはよく練られているし、要所要所でビル・チャンプリンがゲスト参加しているから、シカゴの新録ヴァージョンだと言っても違和感はない。そりゃーシカゴに30年も在籍したのだから、前任セテラから引き継いだ名曲も、もはや自分のレパートリーという感覚だろう。ビルがリードを取って全米No.1を獲得した<Look Away>まで歌っているのは驚くが、何と言っても22年ぶりのソロ作だ。ジェイソンには新たに歌いたい曲がないだろうか?

対して初披露となる5曲。こちらのどの作曲クレジットにもジェイソンの名はなく、すべて外から引っ張ってきたマテリアルだ。1st『CHAUNCY』が全曲オリジナルで固めていたのとは、まるで逆行している。ただし彼を弁護しておくと、ジェイソンは “家族の健康上の理由” でシカゴのツアーを休み、それが脱退へと繋がったから、時間的・精神的に曲を書く余裕がなかった、という理由が成り立つ。実際このアルバムには、dedicated to my firstborn...の記載があって、今年2月に亡くなった長男に捧げられていることが分かる。以前から断続的にレコーディングしている話は耳に入っていたから、愛息を天に送り出したあと、気持ちが落ち着いてから、ようやく具体的なリリース準備に入った、ということだろう。

しかもこの新曲5曲には、シカゴ時代からコラボしていた今作プロデューサー:ジェイ・ディマーカス(ラスカル・フラッツ)の選曲センスが存分に発揮されている。<Wonderful Day><If You Only Knew><Away>を書いているのは、ポップ・カントリー系の売れっ子ソングライターで、グラミーにもノミネートされたことがある(マイク)バスビーの楽曲。彼も今年9月に43歳で急死したが、レディ・アンテベラムやケイティ・ペリー、ケリー・クラークソン、ピンク、キース・アーバンらに楽曲提供している才人だった。また<Never Even Had The Change>は、カントリー系シンガー・ソングライター:ブラッド・クライスラーらの作品で、初出が意外にもベテランR&Bシンガー:キャンディ・ステイトンの14年作『LIFE HAPPENS』だったり。アルバム・タイトル曲<Here I Am>は、ポスト・ホイットニー/マライア・キャリーとして売り出された英国のディーヴァ:レオナ・ルイスのデビュー作『SPIRIT』からだ。曲を書くことこそできなかったが、この5曲には、まさに今のジェイソン、"Here I Am" が詰まっている。

ビル以外の参加メンバーには、ラッシュのアレックス・ライフソン(g)、元ドアーズのロビー・クリューガー(g)、TOTOのツアーに参加して名を挙げたシャロン・フォレスト(ds)、ジャイアントのデヴィッド・ハフ(ダン・ハフ弟)らも。ピノ・パラディーノがべースを弾いて、ジェイソンはヴォーカルに専念、という楽曲もいくつか入っている。

最初に少し斜に構えて書いたけれど、事情を知れば、まぁ仕方がなかったな、と。とにかく作品のクオリティはシカゴの近作を凌駕するほどなので、ビルと一緒にライヴでも演ってくれたら、AOR期のシカゴ・ファンは悶絶モノだろう。しかし辛口に言えば、この『HERE I AM』は近況報告の一作でもあり、ジェイソンの未来を示すものではない。アグレッシヴだった『CHAUNCY』とは、作品のニュアンスが違うのだ。ジェイソンがココから何処へ向かうのか、早々に次の一手を聴きたいッ そう期待させるに充分な近況盤。今はまず、コレの日本リリースを願いたい。