geyster_broadway

最新作『TELEVISON』の発売から、まだわずか4ヶ月。フランスのインディ・ポップ界をリードするサウンド・クリエイター:ガイスターの首謀者ガエル・ベンヤミン。多作家としても知られる彼が、自らの最高傑作を再検証した。13年のアルバム『DOWN ON BROADWAY』が、ボーナス・トラック4曲を含めた15曲入りの “ディフィニティヴ・エディション” として新たに生まれ変わったのである。オリジナル盤は当時、輸入盤国内仕様で紹介されたが、国内プレスでの正規流通ではコレが日本初リリースとなる。

ガエルは大抵ピアノで作曲するが、このアルバムはほぼギターのみで作曲したそうだ。ちょうどその頃購入したギターに魅了されていたこと、当時熱烈な恋愛をしていて、その激情を発散したかったことが重なり、それがラフなサウンド・プロダクションを求めた。彼の頭で鳴っていたのは、ポール・マッカートニーの『RAM』。
「すごくインスパイアされたね。もしかするとこのアルバムは、僕のディスコグラフィーで最も完成度の高い作品かもしれない。だから多くの人にとっては一番聴きやすく、最初に好きになる作品なんだろう」

しかし、そうしたロック・アルバムを良い音で鳴らすには良い機材が必要になる。ご存知のようにガエルは宅録派だが、こうしたピュアなポップ・ロック・ミュージックは、ホーム・レコーディングでは満足できるカタチにはならないと思っていたそうだ。それを完璧にするには、大きな資金を投入して本格的スタジオで録り直すことしかない。でもそれは無理…。結局、当時のレコーディング環境で音を限界まで突き詰めた結果が、オリジナル版の『DOWN ON BROADWAY』だった。

しかしその後の機材の進化で、今は自宅スタジオでもずいぶん良いサウンドが得られるようになった。そこで不満が残っていたこのアルバムから試しに1曲イジってみると、予想以上の好結果が出て、当時実現できなかったサウンドに到達できた。それで勢いに乗って全曲に着手。1週間と掛からずに完成させてしまったという。何処をどう直したかと言うと、ほぼ全部直した、とのこと。
「ベースラインは全部再レコーディングし、ドラムもすべて差し替えた。鍵盤パートもいくつか演奏し直したよ。ミックスもすべて調整し直して、トラックを抜き差しした。当然リ・マスタリングもね。顕著な変化は見受けられないと言った友人もいるけど、僕にとっては夜と昼くらいの違いがある。今となってはオリジナルがデモ・ヴァージョンのように聴こえるよ!」

ガエルはインスピレーションの根源に『RAM』を挙げたが、実際の音から判断すると、そのルーツはビートルズ中期以降からウイングス結成以前までに及ぶ。楽曲よってはホワイト・アルバムのポール楽曲だったり、『ABBEY ROAD』やソロ1作目『McCARTNEY』を髣髴させる瞬間も。大衆的ポップネスと親密さを演出するアコースティック・ナンバー、そしてその隙間から時折顔を出すパラノイア的要素…。それらが絶妙なバランスで同居しているのが、この『DOWN ON BROARDWAY』の特徴だ。言い換えれば、ガイスターというマルチ・フェイス・ユニットの縮図がココに詰まっている、ということになる。

このアルバムを聴かずして、ガイスターを語ること勿れ。