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先週 ロジャー・ウォーターズ『US & THEM』とピンク・フロイド『DELICATE SOUND OF THUNDER(光〜 Perfect Live)』リマスター版を見てから、プチ・フロイド・ブーム。…といってもこのところドタバタなので、運転中にストリーミングで旧譜を聴く程度なのだが。でも今日はちょいと気分転換で、9月末にリイシューされていたコレ、ZEEの『IDENTITY 2019』を。このユニットを知っている方は、ちょっとしたフロイド通と言えるかも。

この ZEEは、ピンク・フロイドのkyd奏者リチャード・ライト(08年没)が、ロジャー・ウォーターズに疎んじられて『FINAL CUT』(83年)に参加できないままグループを追われた時に、元ファッションのシンガー/ギタリストのデイヴ・ハリスと新たに結成したニュー・ウェイヴ系ユニット。彼らが84年に発表した唯一のアルバムが、この『IDENTITY』(左上)だ。

元々その時のライトはバンドを組むつもりで、メンバーを探していた。そこで真っ先に知り合ったのが、皮肉なコトに『FINAL CUT』に参加していたサックスのラファエル・レイヴンスクロフト。ジェリー・ラファティの大ヒット<Baker Street>の印象的なブロウで知られ、この時は既に2枚のAORフュージョン的リーダー作を出していた。そのレイヴンスクロフトがライトに紹介したのがデイヴ・ハリス。他にも2人のミュージシャンが見つかり、5人組としてリハーサルを始めたらしい。

ところがみんなセッション・ミュージシャンとして忙しく、スケジュールがままならない。結局バンド構想は暗礁に乗り上げ、代わりにキーボードやパーカッションもこなせるハリスのマルチ・タレントを活かして、ツー・メン・ユニットとしてスタートさせるプランが浮上した。何より彼はファッション時代から、シンセ・ポップともテクノ・ファンクとも謳われた先進的音楽性の持ち主。最新テクノロジーに明るかったコトがライトの興味をソソったようである。ライトはライトでそうした最新機材に関心を持ち、フェアライトを購入したりしていた。が、プログラムの詳細を覚えるには至らず終い。そしてそれをハリスに期待したのである。

かくして完成したのが、本作『IDENTITY』。当然フロイド・ファンはひっくり返った。日本では発売を見送られ、オリジナル盤はそこそこレアな存在に。CD化も昨年ようやく、という状況である。でも一旦リイシューが進むと、今度はそれをベースに、オリジナル盤のリマスターにボーナス・トラック、未発表のミックスとボーナス・デモから成るCD2枚組に、リリック・ブックと当時のプロモーション写真のレプリカを封入したデラックス・セットが作られた。その未発表ミックスとボーナス・デモを単独リリースしたのが、本盤『IDENTITY 2019』である。

その音は当然デイヴ・ハリス寄り。ニュー・ウェイヴには疎いカナザワなので、彼がいたファッションは聞いたことがないが、そのファッションに近いサウンドだそうだ。それでも曲作りはすべて2人の共作だけあって、やはりライトらしいスケールを感じさせたり、ハリスがデイヴ・ギルモアを意識したギターを弾いたりして、ひと筋縄ではいかない。フロイド・ファンが満足する音ではないだろうが、ある意味ロジャーへの反骨心から、敢えてグループとは真逆のベクトルに自分を立たせたに違いない。

『FINAL CUT』を最後に活動を止めたフロイドが、ギルモアとニック・メイソンによって再開したのが、本作から3年後の87年。ライトはそこにサポート参加し、やがて正式復帰する。だから彼がフロイドの音楽性を否定したり、目指すトコロが変わったワケではないのだ。今作はオリジナルのリマスターとは違うし、アートワークも変更されているリ・プロダクション盤ではあるが、当時のライトの意地や負のエネルギーはジワジワ伝わってくる。彼はテクノを演りたかったのではなく、少し興味を持っていた最新機材を使って、フロイドと違うコトを演ってみたかったのだ。