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正月ムードとは違って訃報が続いた年明けだったが、もう通常営業。皆さんがそういうモードになってきたのは、ストレートにブログのアクセス数に現れる。だって今日はいきなり三が日の1.5倍だからね。もっともカナザワは、暮れからずーっと原稿書きっぱなしですが。ま、それともかく、仕事始めの景気付け、ということで、やっぱり全然 老いぼれてなかったザ・フーの新作『THE WHO』を。

そもそも、デビュー55年にしてバンドを冠したアルバムを出す、ってコトが、カッコイイじゃないっすか メンバーは2人になってしまって、時々健康問題なんかも浮上するけど、とにかくロジャー・ダルトリーがごっつう元気で。ピート・タウンセンドは、きっとそれに触発されたんだろう。「アイツが絶好調なら、ザ・フーとして何か演らにゃ」って。

サポート陣は、ツアーに同行して今や準メンバー的存在のピノ・パラディーノ(b)とザック・スターキー(ds/リンゴ・スターの息子)、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズのベンモント・テンチ(kyd)、それにジョーイ・ワロンカー(ds)など。プロデュースはバークマーケットのデイヴ・サーディ。オアシス絡みでよく名前が出る売れっ子プロデューサーだけど、そこいら辺は門外漢なので軽くスルー。でもこういう人と組むところが、やっぱり現在進行形ってコトで。

日本でもスッカリ大御所扱いになったザ・フーだけど、カナザワが彼らを初めて聴いた70年代中盤頃の彼らは、キンクスと並んで、日本で売れない大物ロック・グループの代表格だった。それこそキース・ムーンの奇行やピートの演奏スタイルが一番の話題になっていて、フロントに立つロジャーが目立たなかったくらい。クイーンのように、日本ではロック・バンドがヴィジュアルから注目される奇妙な傾向もあった時代だ。広く注目されるキッカケが、豪華キャストの『トミー』映画化とキースの急死だった気がする。またパンク・ブームを経てのモッズ人気も、彼らをステイタスを押し上げたか。映画『さらば青春の光』とか。

でもビッグ・ネームになったからといって、踏ん反り帰らないのがザ・フーの魅力。今イチだった 13年前の前作『ENDLESS WIRE』に比べて、彼ららしさに今のサウンド・テクスチャーを無理なく取り込んでいる。それでいてこだわる所にはこだわるのが彼らの流儀。例えばロジャーは新作について、「ボーナス・トラックってやつ、俺は理解できない。俺にしてみれば、そのせいで完璧なアルバムが完璧じゃなくなる。完成した作品にデモを加えるなんて、本当に冗談だ。(中略)正直言って、かなり腹が立つ」と、レコード会社に対して尖りまくった発言をしている。作品か商品か?というのは、音楽を生業とするミュージシャンにとって永遠のテーマ。サブスクリプションが一般化して音楽メディアの存在価値が問われる今は、とても重要なポイントだ。プリンスがグラミー授賞式でプレゼンターを務め、「アルバムって覚えてる?」とコメントした5年前より、状況は更に厳しくなっている。個人的には、サブスク、フィジカルでそれぞれに差別化が重要だと思うけど、いかが?

でもこだわりが過ぎて、鬱陶しく感じられてしまったら、若いリスナーには逃げられる。でも「なるほど」と納得させられれば、将来は明るい。それがシーンを良き方向に引っ張るのだ。自分をひけらかすオトナは嫌われるのがオチだけど、シッカリした知識と判断力のあるオトナは、もっと世代を超えた発信をしていくべきだな。

「『四重人格』以来、最高のアルバムを作り上げた」とロジャーは言う。自分もその言葉は間違っちゃいないと思う。このタイミングで届けられた、キャリアを代表する傑作。あまり深くは追ってこなかったザ・フーだけど、今一度、足跡をシッカリとフォローしておかな! そう思わせるアーティスト・パワーこそが、これからのサブスク時代、最大の武器になる。