tokyo boys girls

角松敏生が音楽監督を務めたミュージカル『東京少年少女』@渋谷区文化総合センター大和田さくらホール。23日で本公演2日4ステージに追加1日の計5公演がハネたので、その感想を。カナザワが観たのは初日。最初に宣言しておくが、カナザワはミュージカルに関しては門外漢で、専門知識は皆無だ。従って自ずと角松ファン的立ち位置から観た、ポップス好きのレビューになる。でも “角松がやるなら何でも肯定” という盲目的シンパではなく、取り巻きに居がちなイエスマンでもないので、批評というより率直な感想として書いておきたい。

まず、音楽・ダンス系専門学校の生徒+OB主体で学園モノのミュージカルを作る、という時点で、この作品は大きなリスクと限界を背負い込んだと言える。インディペンデントな座組みだから、そうそう大きな仕掛けができないことは分かっちゃいるが、そうしたマイナス要素を何処まで克復できるかが成否を分ける鍵になると思っていた。

マイナス要素というのは、学園モノで大所帯の舞台になること、学生中心のキャストで表現力や歌唱力に個人差や不安定感が出ること、決まった学校のスタッフで固まるから画一化しやすいことなど。しかも部室が舞台で、みんな同じ制服姿。女子なんて、遠目では誰が誰やら判別不可能だ。ここまでは事前になんとなく危惧していたこと。でも角松のツアーで生徒たちのキレキレのダンス・シーンを目の当たりにしていたので、動きのあるミュージカルなら何とかなるか、と思っていた。

ところが蓋を開けてみたら、やたらめったら説明調で展開が重々しい。かつて強豪と言われた廃部寸前の都立進学高吹奏楽部を、教師になって戻ってきたOGが立て直していくのがメインストーリーなのだが、その生徒一人一人が それぞれに心の闇を抱えていて、第一部ではそれが次々に独白されていく。そうした内省的でヘヴィな話を、まだ表現力の乏しい若いキャストが語っていくのだ。だから前半を観ただけでメチャメチャ疲れてしまい、それこそ中座しようかと思ったほど。もちろん中には、「オォ、この子は表現が豊かだ」という子も何人かいた。上手下手とは違う次元で、彼らみんなが頑張っているのも伝わってきた。でもそれは作品のクオリティとは別。キャストが多い学園モノだからこそ、もっとスッキリと伝える工夫が必要だったのではないか? でもこの脚本は、あまりに詰め込み過ぎ。個人の設定がややこしい上に、内容が鈍重すぎた。角松のアルバムのようなアクティヴな展開は、舞台からは消えていた。

生徒たちが葛藤を抱く対象が、みんな親ばかり、というのも違和感アリ。吹奏楽部として戦うべき理解のない校長が、実は吹部の女子生徒の父親だったというのも、昼メロにありがちな安っぽい展開でぶっ飛んだ イジメも少し絡むけど、それは表面的。そもそも都立進学校の吹奏楽部、という舞台設定で、中流家庭の子供たちという無言のエクスキューズがあり、何だか今のオトナたちから見た、想定可能な “悩める青春群像” かと。子供のない自分が言うのもおかしいけど、今の世の中は、もっともっと格差社会が深刻に進んでいて、クレバーな子と行き場のない子との落差が遥かに大きいと感じる。そうした違和感が最後まで拭えず、「今にして金八先生より平和だな」と思ってしまった。このストーリーに感情移入できたオーディエンスの皆さんは、やっぱりきっと中流意識の強い方々だろう。ってか、そもそもミュージカルに足を運んでいる時点で、貧困系の方々ではないはず。でも本当の問題は、低収入や貧困に喘ぐ家庭の子供たちなのでは? 若手の韓流スターやミュージシャンの意識が高くてスゴイのは、母国の徴兵制と何処かで繋がっている。若くても、みんなそれだけ真剣に社会や自分の将来を見つめているのだ。

第2部の中盤あたりになって、ようやく乱雑に取っ散らかっていたひとつひとつの話が、ハイライトに向けて大きく動き始めた。ストーリー的にはよくありそうな予定調和なので、ほとんど強引にまとめ上げていった感じながら、それでも確かにラストに向けてスピード感が増した。特に終盤の、若い出演者たちの初々しい熱演には、素直に拍手。最後へ来て、やっとグイッと話に引き込まれていく自分がいた。

音楽に関しては、ただただ労をねぎらいたい。アルバム『東京少年少女』の楽曲の使い方、<OSHI-TAO-SHITAI>を引っ張ってきて上手く挿した辺りはサスガだったが、もっと動きのあるミュージカルを予想していたら、全然ヘヴィだったワケで、舞台より映画向きの本だった。それに合わせてのサウンドトラックだから、楽曲として聴くと欲求不満が残る。若いキャストは、角松が書く難易度の高いメロディを よく歌いこなしていた。けれど、それもやっぱり将来に期待、というレヴェル。『東京少年少女』のツアーと違って、音楽だけを抜き出して云々はできない。…とはいえ、これだけ登場人物が多い複雑な構成のミュージカルの音楽を、限られた時間でよくココまで作り込んだ、と感心する。聞けば、初日の本番前のゲネプロでPCがトラブり、角松がエラくパニックったとか。いあぁ〜、マジでご苦労様でした。

最終的には、学生中心のインディペンデントなミュージカルとしては よく健闘していたな、と。音楽はもう少し時間を掛けられたら、もっと良くなっていたと思う。でも音楽制作以前に、脚本に無理があったのは否めなかった。重いテーマの原案が、脚本で更に重くなってしまった感があり、角松の音楽をもってしてもそれを跳ね返せなかった。若いキャストには将来が楽しみな人もいたので、ココからそう言う人材が出てくれば、それでイイのではないか。冒険やトライアルはイイことだけど、角松はやっぱりポップスの世界で、シッカリやるべきコトをやっていって欲しい、と願っている。