james taylor_standard

ジェイムス・テイラー、『BEFORE THIS WORLD』以来5年ぶりの新作。何でもソレはキャリア初の全米No.1アルバムだったそうで、ちょっと驚きなのだけど…。ただしその成績は、前作がとびきりの名盤だったからではなく、周囲がどんどん時代に流されていったのに、J.T.だけはずーっと変わらずにいた、その結果だったと思っている。それでも完全に不変なのではなく、2015年にふさわしいテイストにはなっていた。同じ方向から同じような強さで吹き込んでくる風でも、ほんのり纏う風の色合いが変わっていた。特に聴き込んだりはしなかったけれど、その匙加減が気持ち良くて、安心していられた。

そしてこのニュー・アルバム『AMERICAN STANDARD』。当然オリジナル作品が来ると思っていたから、カヴァー集だと聞いて、ちょっとガッカリ。肩透かしを喰らった気分だった。ロッド・スチュワートかバリー・マニロウにでもなるつもりか? 確かに『COVERS』や『OTHER COVERS』といったカヴァー集を作ってはいたけど、趣味的な風合いだったその2作とはニュアンスが異なる予感があった。そしてジョン・ピザレリとのコラボ作になると知って、ちょっと安心した。

収録曲は、ジーン・オースティンの1928年のヒット<My Blue Heaven>、映画『ティファニーで朝食を』の主題歌として有名な<Moon River>、多くの人が歌っている<Teach Me Tonight>、マイケル・ブレッカーのアルバムでも共演していた<The Nearness Of You>、ビリー・ホリデイが書きブラッド・スウェット&ティアーズも取り上げた<God Bless The Child>等など…。説明では伝わらなくても、きっとメロディを聴けばピ〜ンと来る、そんな曲ばかりだ。それをJ.T.とピザレリの2本のギターでシンプルに綴っていく。ただし、原曲にはないコードを次々に加えて新しい響きをクリエイトし、名曲に別の表情を植え付けていく。豪華絢爛に彩られたロッドのふっかふかなスタンダード集とは違って、森林浴をしながら音に酔っているような、小ざっぱりした気持ちの良さ。ケニー・ランキン風の小粋なジャズ・アレンジもあったりして、ケニー好きにはとても嬉しい。

スティーヴ・ガッド(ds)、ルイス・コンテ(perc)、シミー・ジョンソン(b)、ラリー・ゴールディングズ(kyd)、ルー・マリーニ(sax)、ウォルト・ファウラー(tr)、アーノルド・マッカラー(cho)、ケイト・マーコウィッツ(cho)などの気心知れたサポート陣に、アリソン・クラウス周辺の腕利きミュージシャン、アリソンの兄ヴィクター・クラウス(upright bass)などを加えた陣容。今の奥様キャロラインとのデュエットなんかも入っていて、そこでもやっぱり ホッコリする。

そもそもJ.T.がこのタイミングで、こうしたアルバムを作ったのは何故だろうか? 歌っているのは、1920〜50年代という本当に古〜いスタンダード・ナンバーばかり。この殺伐した世界に、心の故郷になるような本当の癒しを与えたい、という意思表明なのかな? 日本盤CDはボーナス2曲追加収録。アナログ盤は1枚モノと重量盤2枚組があります。