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元スティクスのデニス・デ・ヤング、13年ぶりのソロ・アルバム『26 EAST Vol.1』が素晴らしい。タイトルはデニスの出生地であり、スティクスが結成された米イリノイ州シカゴの住所から。当初はデニスの現役ラスト・アルバムとして着手されたらしいが、創作意欲に満ち溢れるあまり1枚に収まりきれず、"Vol.1" としてリリースされたそうだ。そしてそのポジティヴなスタンスが、そのままアルバムの充実に繋がっている。

別に、何か目新しいコトをやっているワケじゃない。でもこの人の場合は、何といってもその歌声自体がリーサル・ウェポン。イイ曲揃えて、的確なアレンジを施してくれれば、後は思いっきり歌えばイイ。それでもスティクス時代のイメージが強いから、今まではどうしてもそこを越えるコトができない、というジレンマがあった。それでも、この数年でスティクス時代の名曲を総ざらえするツアーをやって、ライヴ・アルバムを出し、キャリアの最終コーナーに差し掛かって、ある種の開き直りが生まれたのだろう。まるでスティクス初期のような溌剌とした音、朗々とした歌声が戻っている。そりゃー往年に比べればトップは下がっているのだろうけど、新曲ならば全く衰えなど感じない。

スティクスというと、その若干 演出過多気味のサウンド・メイクが持ち味だった。でもそのバランス感を失うと、途端に陳腐に聴こえてしまう。その臨界点はリスナーごとに違うだろうが、『CRYS|TAL BALL』『THE GRAND ILLUSION』、そして『PIECES OF EIGHT』と70年代後半のスティクスに魅せられたカナザワとしては、『CORNERSTONE』までがリアルなスティクス。日本で人気の高かった『PARADISE THEATER』でさえ、既に良い感情は持っていない。産業ロックの大衆志向が進みすぎ、音楽性を押し下げてしまったと感じていた。もちろんイイ曲もあるけど。

そうした意味で今回のアルバムのデニスは、いわば自然体で制作に臨んだと思われる。ポップでありながら、デニスらしさもシッカリ表現。ソロ1stにして最高作だった『DESERT MOON』に勝るとも劣らない。特に注目すべきは、半数の楽曲でデニスと一緒に曲を書いているジム・ピートリック(元サヴァイヴァー)の存在だ。00年頃からのピートリックのリーダー作にはデニスも顔を出していて、昨年の『WINDS OF CHANGE』でもデニスがリード・ヴォーカルを取る<Proof Of Heaven>という好曲があった。そしてこれがまた、見事にスティクスしていて…。近年のスティクスも頑張っているけど、何か物足りないのは、やっぱりこの歌声なんだよな、と痛感させられた。その意欲的コラボが、このアルバムに結実。ジムは曲作りだけでなく、ギター、ベース、鍵盤にコーラスと大活躍している。

更に<To The Good Old Days>は、お懐かしや、ジュリアン・レノンとの共作&デュエット。先行配信されていたものの、アルバムのラストを占めるタイプのバラードなので、リード曲に相応しかったかはチョイと疑問だ。でもシットリした良いバラードなのは疑いない。ジュリアンもスッカリご無沙汰だけれど、ジョン・レノンの愛息、というだけで片付けてしまってよいアーティストではないんだけどな。

そしてアルバム・エピローグには、涙が溢れる瞬間が…。スティクスとは泥仕合の訴訟をやって、結局看板を使えなくなったデニスだけれど、謝辞の最後に黄金期メンバーの名前をクレジットしているところに、軽く感動を覚えちゃう。あぁ、早くも有終の美を飾るであろう "Vol.2" が楽しみで仕方ない。