kisugi_82

この前ココにもアップしたレコードコレクターズ誌最新号の特集【シティ・ポップの名曲 ベスト100 1980-1989】を再度チラ見。そこで思ったのは、良くも悪くも 現在のシティ・ポップ・ブームの偏向性を表しているな、というコト。選ばれた楽曲の1割以上が山下達郎、そのファミリーを入れると一体? かくいう自分も達郎さんを2曲選んだが、正直コレほどイビツな状況になっているとは思わなかった。もちろんそれは氏の人気や信頼性、音楽性の高さを反映したものだけれど、シティ・ポップ・シーンを俯瞰して見ると、決して健全だとは思えない。結局アーティスト/ミュージシャンとしての評価だけでなく、ラジオ番組を通じてのご意見番的存在感が大きく影響しているのだろうな。

そういう人がいるお陰で割を喰ってしまったのが、地味な実力派で、尚かつ音楽的スタンスがビミョーな人。寺尾聡ぐらいのメガ・ヒットになってしまえば評価が定まるが、井上陽水でさえ1曲ランクインがやっとだから、仕方がないのだろう。でも Night Tempo みたいな若い世代の外人DJ が考えるシティ・ポップならまだしも、日本人の音楽ファンなら、もっと歌詞とか時代背景、カルチャーとか、そういうプラス・アルファの部分に気を止めるべきじゃないか?と思う。 グルーヴ任せでクラブで踊ったり、DJバーで聴いて気持ちよくなって ハイ終わりでは、単なるバカでしょ 海外からの再評価は大いに歓迎したいけれど、日本のポップ・シーンが、海外で組まれたコンピレーションや外人DJのミックス・テープに惑わされるなんて、ちょっと本末転倒じゃないか。まぁ、そういうタイプの人は、こんなトコ見てないと思うけど。

…というワケで、<夢の途中>(a.k.a. セーラー服と機関銃)が大ヒットした後の、来生たかお 82年作。オリジナル・アルバムとしては8作目。半分超が坂本龍一のアレンジで、落ち着いたアダルトな内容になっている。この時期、教授がアレンジした男性シンガー・ソングライターというと、真っ先に南佳孝が浮かんでくるが、佳孝さんからジャズやソフト・ラテンの要素を消して、代わりにフォーキーな香りを注入した、というか。基本的に来生さんはギルバート・オサリヴァン風だからね。しっとりウェットだけれど、ジメッとした暗さはなく上品。

参加メンバーも豪華で、教授以下、鈴木茂/大村憲司/松原正樹/芳野藤丸/椎名和夫(g)、野力奏一/中西康晴(kyd)、岡沢章/伊藤広規/長岡道夫/富倉安生(b)、上原ユカリ(ds)、浜口茂外也(perc)、数原晋(tr)、沢井原兒(sax)など。コーラスで東北新幹線(鳴海寛&山川恵津子)の名もある。<蜜月>はプログラミングを駆使した教授の一人多重。<High Noon>や<Midnight Step>も彼らしい好アレンジながら、<渚のほのめき>のキラメキ感にはちょっと及ばず。ファンの間では、アルバムとしては地味すぎるという声が少なくなかったらしいが、それは “井の中の蛙” というもの。華やかな80'sサウンドが蔓延り始めたこの時期にあっては、中途半端に華やいでも埋もれてしまうだけ。この秘めた感じこそが、来生の個性のアピールに繋がったと思う。星勝アレンジの楽曲は従来イメージだけれど、個人的には2作後の『ROMANTIC CINEMATIC』と共に好きなアルバムだな。