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ここ10日ほど落ち着いていたが、また訃報。マッスル・ショールズ・リズム・セクションの一翼を担った名ギタリスト:ピート・カー(本名ジェシー・ウィラード・カー)が逝ってしまった。享年70歳。現時点では原因は伝えられていない。

洋楽好きであれば、ピート・カーの名前は知らずとも、きっとそのギター・プレイは何処かで耳にしているはず。ポール・サイモン御用達で、ソロ・アルバムはもちろん、サイモン&ガーファンクルの再結成ライヴなどにも参加。ロッド・スチュワートの代表作『ATLANTIC CROSSING』、ボブ・シーガー『NIGHT MOVES』『 STRANGER IN TOWN』『AGAINST THE WIND』他、バーブラ・ストライサンド&バリー・ギブ『GUILTY』、ボズ・スキャッグスやジョー・コッカー、ボビー・ウーマックなどのセッションにも幅広く参加している。AOR好きであれば、<Falling>(77年/全米13位)をヒットさせたレニー・ルブランとのデュオ・ユニット:ルブラン&カーでもお馴染みだろう。元々はフロリダのデイトナ・ビーチ出身で、10代の頃にデュエイン&グレッグ・オールマンと出会い、一緒にアワーグラスというバンドを組んでいたこともある(ベースで参加)。オールマン・ブラザーズ・バンド結成の際も、真っ先に声を掛けられ、それを断ったことからディッキー・ベッツにお鉢が回ったそうだ。その後マッスル・ショールズのフェイム・スタジオに出入りするようになり、セッション・ギタリストとして活躍を始めた。

76年に初リーダー作『NOT A WORD ON IT』(上掲)というギター・インスト作を発表。オープニング・チューン<Tuscumbian Lover>を聴くと、それがジェフ・ベック『BLOW BY BLOW』に感化されたものだとすぐ分かる。ただし途中でドラスティックに転調し、スワンプ乗りのファンキー・チューンへと展開。敏腕セッション・マンだからどのようにも弾けてしまうが、やはりこのR&B的グルーヴが彼本来の持ち味だろう。参加メンバーは、オールマンズ〜シー・レヴェル、最近はローリング・ストーンズのサポートで有名なチャック・リーヴェル(kyd)、ピート同様マッスル・ショールズで活躍するロジャー・クラーク(ds)やティム・ヘンソン(kyd/ソロ作あり)。そして現地ウィッシュボーン・スタジオのオーナーで、プロデューサーとしても活躍するクレイトン・アイヴィー(kyd)など。そしてベースで参加の盟友レニー・ルブランと、前述デュオを結成。77年に『MIDNIGHT LOVER』をリリースし、<Falling>をヒットさせた。しかし同年10月に発生したレーナード・スキナードのツアー・チャーター機墜落事故にひどくショックを受け(追記:ルブラン&カーの1st ツアーがこの時のレーナードのツアーのオープニング・アクトだった)、セッション・ワークに回帰。翌年レコーディングされたルブラン&カー・バンド名義のプロモ・ライヴ盤『LIVE from the ATLANTIC STUDIO』には参加せず、2ndソロ『MULTIPUL FLASH』を制作している。なお、13年に日本発売された『NOT A WORD ON IT』の国内盤解説に、「79年にBoatsといグループでアルバム・リリース」とあるが、Boatsはデュオ・チームで、ピートはあくまでプロデュース&アレンジ/ギタリストとしての参加なので念のため。

訃報に接して、しばらくぶりに『NOT A WORD ON IT』を聴いているが、<Theme From Sparkle>はまるでオールマンズの<Jessica>だし、ラストの<Twisted Hair>もまさしくで、如何ようにも弾けてしまう器用さがある。でもただ技術的に上手いだけじゃなくて、表現として饒舌。アルバム・タイトルからもうっすら感じるけど、ホントはピートって、歌えるモンなら歌いたかった人なんだろうな。

Rest in Peace...