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シカゴから現れたド新人の4ピース・バンド、ザ・デヴォーンズのデビュー・アルバムが本日のピックアップ。キャッチコピーに拠れば、“ヤング・ガン・シルヴァー・フォックス・ファンに突き刺さるメロウでスウィートでグルーヴィな傑作ブルーアイド・ソウル・アルバム!” とのこと。確かに現行ポップ・シーンに照らせば、 ヤング・ガン・シルヴァー・フォックスを引き合いに出すのは正しいだろう。でも元々のUSプレス・リリースには、“70年代を中心としたシカゴ・ソウル黄金期のムードを呼び覚ますスローバックなソウルのレコード” とある。実際ヤング・ガン〜が纏っているウエストコースト・エッセンスはザ・デヴォーンズには稀薄で、ノーザン・ソウルの匂いを強烈に感じるのだ。

特にカナザワが思ったのは、ズバリ、ポール・ウェラー〜ザ・スタイル・カウンシルの線。ヤング・ガン〜のブルー・アイド・ソウル香がカリフォルニア経由だとすると、ザ・デヴォーンズのそれはやっぱりウインディ・シティから届く。中心人物であるシンガー・ソングライター兼マルチ・プレイヤーのマシュー・アジャラヴのお気に入りは、ナチュラル・フォーの<Can This Be Real>(73年)なのだとか。カーティス・メイフィールド主宰のレーベル:カートムが発売した、リロイ・ハトソン制作の一曲。なるほど、道理でインプレッションズっぽい音になるワケだ。実際にアルバムでは、リロイ・ハトソンの<So In Love With You>をステキにカヴァーしていて、なかなかに直球で。

アルバム・クレジットには、リロイやカーティスに加えて、アイズレー・ブラザーズ、バーケイズ、ウィリー・ハッチ、ルーファス、アース・ウインド&ファイアー、アレサ・フランクリン、プリンス、ラファエル・サディークなどへの謝辞が。ザ・システムが同列に並んでいるのは、このローファイなサウンドからすると意外に映るが、アジャラヴはマルチとはいえ鍵盤メインの人だから、プリンスやサディークと共にそうしたエレクトリファイされたファンクを通過しているのだろう。そういえばジェイミー・リデル<Green Light>のカヴァーも入っているな。リデルはエレクトロとソウルに傾倒し、プリンスをリスペクトしつつ ベックにプロデュースを仰ぐ人。それでポール・ウェラーあたりとも繋がるのだ。

メンバーの名前やグループ・ショットを見て気づいた人もいるだろうけど、彼らは実際はブルー・アイド・ソウル・バンドでも白黒混成バンドでもなく、インドとかアラブ系の血筋が混じったハイブリッドな出自を持つようだ。Black Lives Matter で大揺れのUSにあって、彼らはもうワン・ステップ、ややこしい立場に立つと思われる。そうした意味では、人種には比較的寛容なUK志向になるのは、感覚的に自然なことかも。サウンド的には、エスタブリッシュされる前の初期ホール&オーツを思わせるアーリー・フィラデルフィア・ソウル・テイストや、メンフィス・ソウルのニュアンスもそこはかとなく漂っている。そもそもヤング・ガン〜のショーン・リーはロンドン在住の米国人(カンザス生まれ)だし、ジェイミー・リデルは逆にナッシュヴィル在住の英国人。ザ・デヴォーンズにも<Blood Red Blues (Protest Song)>という楽曲があるくらいで、人種差別や銃社会に対するメンバーの苛立ちは強そうだ。もしかしたら、次はもっとアグレッシヴなマテリアルが生まれる可能性だって。そうなると、純音楽的でオプティミスティックなヤング・ガン〜より、もう少し尖ったポスト・パンク〜オルタナティヴのイメージでアピールした方が良いのかもしれない。オリジナル・アートワークを見ると、やはり少しそんな主張がありますね。