shigeru suzuki_telescope

鈴木茂は、素直なミュージシャンだ。はっぴいえんど での立ち位置は、まるでビートルズでのジョージ・ハリスン。単にギタリストと言うのではなく、特異な才能を持つ2人と自分の持ち味で勝負するもう一人の間で苦悩したコモン・マン、というか。その分 自己研鑽してセンスを磨き、グループ解散直後に自己を確立。ソロ・アルバムを発表順に聴いていくと、その時々の彼のやりたいこと、目線の先がよく分かる。ともにスライド・ギターが得意というのも、何かの偶然とは思えない。

この『TELESCOPE』は、78年リリースのソロ4作目。そのスペシャル・エディションが出た。ロック・ギタリストとしての鈴木茂は1st『BAND WAGON』でもう完成しちゃって、2作目『LAGOON』からはシンガー・ソングライター兼アレンジャー:鈴木茂が始まる。その時はCTI系やLAブルーノートなどのクロスオーヴァー・フュージョン/ボサノヴァに感化されたのが明白だけれど、セッション・ワークで多忙な日々を送るうちに次なる目標がハッキリと見えてきた。それはズバリ、筒美京平。前作『CAUTION!』では、まだ自身の作風へのコダワリが感じられるが、この『TELESCOPE』では、楽曲ごとにアレンジの元ネタが見える。

解説の長門(芳郎)さんが挙げているのは、 アバ<Dancing Queen>、ジノ・ヴァネリ<I Just Wanna Stop>、スティーヴィー・ワンダー<Another Star>、バリー・ホワイト&ラヴ・アンリミテッド・ オーケストラ<Love's Theme>、フォー・トップス<Reach Out I'll Be There>など。<ストリップ・ティーズ>で八神純子<みずいろの雨>が歌えてしまうのは、どちらもスティーヴィー<Another Star>を引用しているからだな。それに当時ヒットしていたバリー・マニロウ<Copacabana>っぽいトコロも。ニューミュージックのみならずアイドル歌謡のアレンジも多数こなしていた人だから、その頃ハヤっていた音には極めて敏感だったし、外からアイディアを盗まないととても仕事が追いつかない、そういう裏事情もあったと思われる。ディスコ寄りのポップ・ダンサーが多いのも、そうした背景から。派手なホーンに華やかなストリングス、茂さんの人柄からするとその大胆なアレンジに驚くばかりだけれど、この頃は落ち着いて考えている時間などなく、サッサと次へ行かないと締め切りに間に合わない、きっとそんな日々だったんだろうな。

時折パッと出てくるギターの甘美なソロは、さすが鈴木茂、と唸らされるもの。でも当時の彼の意識はそこにはなく、アレンジや全体のアンサンブルに向かっていたと思われる。作詞は全曲、松本隆。ラハイナ、ハヴァナ、ティファナ、サンディエゴと続くトロピカルなイメージ操作は、サスガというしかない。参加メンバーはいわゆるティン・パン・ファミリーだが、来日したタイミングを捕らえたのか、チャック・レイニーも参加している。下積み時代の安部恭弘がコーラスに名を連ねるのも興味深い。

この "2020 Special Edition" は、茂さん自身のリミックスによるリ・プロダクツ。ディスク2には未発表アウトテイクがテンコ盛りで、歌入れ前のテイクが多数。カウント前のやりとりも断片的に。

しかし、この印象的な走りっぷりは、欽ちゃんの影響? それとも どおくまん『嗚呼!! 花の応援団』のセンですかね? ってか最近の若いシティ・ポップ・フォロワーは、まるで「?」なのだろうけど…。もちろん、拙監修『Light Mellow 和モノ』にも掲載してます。