sheila b.

シックのナイル・ロジャース&バーナード・エドワーズによる初期プロデュース作の1枚が、40周年記念リマスターによる2枚組エディションでリイシュー。シェイラの本国フランスでは 2LP+2CD+DVD+ハードカヴァー・ブックレットから成るBOX SETも出たようで、完全にビッグ・スター扱い。日本でのシェイラはほぼ泡沫ディスコ・アーティスト、音楽マニアにはシック・ワークス、もしくは次のL.A.録音のAORアルバム『LITLLE DARLIN'』で知られるだけだけど、実は60年代前半にデビューしたフレンチ・ポップの大スター。シルヴィー・バルタンと同世代でフランス・ギャルの先輩格、パリから世界に向けて発信されたイェイェ・ブームの元アイドルだった。シェイラの名は、彼女がトミー・ロウの全米No.1ヒット<Sheila>(62年)でデビューしたのが由来だそうだ。

73年に結婚したせいか、その後人気が低迷し始め、心機一転シェイラ&B.デヴォーションを結成して、77年にディスコ路線で再デビュー。B.デヴォーションの"B" は Black で、歌って踊る黒人男性3人を従えていたことによる。デビュー曲はミュージカルでお馴染みの<Singin' In The Rain>のディスコ・ヴァージョン。それに続く2枚目のアルバムがコレに当たる。ワールドワイドでは収録曲にちなんで『KING OF THE W WORLD』というタイトルがつけられたが、日本では79年に先行ヒットさせた<Spacer>(全米R&Bチャート28位)から『エレガンス・スペイサー』が邦題になった。

80年リリースというと、シック的には<Good Times>を大ヒットさせ、プロデュース・チームとしてもシスター・スレッジを大成功に導いた直後。ちょうどダイアナ・ロス『DIANA』と同時期で、勢いに乗り始めた頃の作品になる。シェイラたちの<Singin' In The Rain>はロンドン制作だったが、元々がフレンチ・ポップスの人だから、汗臭くないファッショナブルでエレガントなダンス・サウンドを身上としたシックとの相性は抜群。シェイラ自身は節操なく何でも歌ってしまうポップ・シンガーに過ぎないが、この時期にこの路線に進み、そこにシックを連れてくるという手管が見事だ。この辺り、彼女をスターに仕立てたプロデューサー:クロード・カレアの慧眼なのだろう。

当時のシック・ワークスでは、ダイアナやシスター・スレッジに比べ当然軽い作りで、勢いで作ってしまっている感覚。<Spacer>では珍しく、ナイルがシッカリとしたロック系ギター・ソロを弾いているのがご愛嬌か。でもあまり深く考えずに作ったのが逆に功を奏したようで、アルバム全体に若々しい疾走感がある。なるほど、この辺りのセンスが後々デヴィッド・ボウイやデュラン・デュランに繋がるのかな。もっともシェイラはこのとき既に30代半ば、なのだけど… 個人的には、シック十八番のストリングスが美麗に絡む<Your Love Is Good>がベスト・トラック。いま聴くと、<Don't Go>もメロディ運びがシティ・ポップっぽくて面白い。

ディスク1のボーナス曲およびディスク2には、本編収録曲のアウトテイクやシングル・ヴァージョン、<Spacer>のトム・モールトン・ミックスなど、ディスコ・マニアには堪らないトラックてんこ盛り。まぁ、ディスコ期よりニューヨーク・ファンク色を強めてからのシックが好きなカナザワには、若干畑違い感もありますが、こうしたワークスあってこそ後の制作チーム的サクセスがある、というコトで。

それにしても、この後のシェイラのAOR転身は、完全に振り切れてますな