ewf_head to the sky

唐突にアース・ウインド&ファイアー。普段は執筆がらみでもない限り「今更、聴かんよォ…」と言ってるが、年に何度か無性に聴きたくなってしまうのが、やっぱり全盛期アースに感化された者の性か。でも今回は『THAT'S THE WAY OF THE WORLD(暗黒への挑戦)』でも『ALL 'N ALL(太陽神)』でも『I AM(黙示録』でもなく、ましてや『FACES』でも、<Let's Groove>入りの『RAISE!(天空の女神)』でもない。そういえばニュー・アルバムって全然出ないなぁ…、と現役感欠如を嘆きつつ、視線は初期作品群へ。アースが最もアースらしく、自分がヘナっている時に聴いて元気が貰えるのは先に挙げた作品群だけれど、今はそういうモードでもないのだな。

結果としてチョイスしたのは、73年の『HEAD TO THE SKY』。米コロムビアでの2作目で、グループ通算4枚目。アル・マッケイ(g)とアンドリュー・ウールフォーク(sax)が加入したのがココからで、フィリップ・ベイリーやラリー・ダン(kyd)にとっては2作目になる。ジャケの通り、この頃はジェシカ・クリーヴスという女性シンガーがメンバーで在籍。後のトレード・マーク、フェニックス・ホーンズはまだいない。若いファンには、フェイップやアル・マッケイは最初からいた、と思ってる人、いるんじゃないかな?

サウンド的には、アトランティック時代のゴリゴリ硬派なジャズ・ファンクと、75年作『暗黒への挑戦』以後のキレがあって壮大なポップ・ファンクの中間で。しかもアースで初めて100万枚以上を売り上げたプラチナ・ディスクで、ビルボード誌アルバム・チャートでは27位(R&B2位)をマークした。すなわち、グループ史上初めて商業的成功を収めたと同時に、人種の壁を越え始めた作品と言える。当時の邦題も『ブラック・ロック革命』。その背景には、スティーヴィー・ワンダーやマーヴィン・ゲイに代表されるニュー・ソウル、スライ&ザ・ファミリー・ストーンのようなファンク・ロックがあり、ロック・フィールドでもサンタナのようなミクスチャー・バンドが人気を得ていた。そうした流れをジャズ・ファンク的スタンスで再構築したのが、この頃のアース。アフリカン・アメリカンの枠を越えて社会的メッセージや人類愛を高らかに歌い、翌74年6月にはカリフォルニア・ジャムに出演して、ディープ・パープルやエマーソン・レイク&パーマー、イーグルスらと共演している。

雷鳴に続いてカリンバが鳴り出すオープナーのミディアム・ファンク<Evil>は、ディー・ライトなどのサンプリング・ソースとしてもお馴染み。タイトル曲<Keep Your Head To The Sky>は、シタールの音色とフィリップ・ベイリーの歌声が印象的なミディアム・スロウで、ゴスペルちっくな歌詞も特徴的だ。アカペラになってのエンディングも斬新だった。クラヴィネットを効果的に使って濃厚ファンク体質を露わにする<Build Your Nest>、名曲<Can't Hide Love>と同じくスキップ・スカボロウ提供の<The World's A Masquarade>のブルージーな展開は、まさに初期ならでは。ほのかなラテン・フレイヴァーにフルートが舞う<Clover>が半ば序章となって、13分超のインスト大曲<Zanzibar>へ。これはブラジルの新世代シンガー・ソングライター:エドゥ・ロボのカヴァーで、彼らの持ち味を全開にした自由度の高いジャズ・ファンク・ジャム・セッションが繰り広げられる。言わば<Brazilian Rhyme>の元祖みたいなナンバー。でも人気爆発後は、ああして縮小されてインタルードにされてしまうワケで、こうしてたっぷり聴けるのは、やはり初期ならでは。これを導く、赤ん坊の鳴き声みたいに聴こえるクイーカのイントロ、ジェシカ・クリーヴスが<Head To The Sky>をアカペラで口ずさむアウトロにも、思わずニヤリとさせられる。<Zanzibar>といえば、フレディ・マーキュリーの出身地として有名だが、ビリー・ジョエルも同名曲を書いて熱く熱くプレイしており、やはり何かを想起させる土地柄のようだ。

ちなみに手持ちの国内盤アナログ初回盤はシングル・ジャケット。オリジナルはゲートフォールド(見開き)で、表カヴァーの別ヴァージョンになっている。紙ジャケCDは、当然見開き。プロデュースは、ボズ・スキャッグス『SILK DEGREES』と同じ、ジョー・ウィザートだった。また当時の解説は、ジャズ評論家の岩波洋三氏。それでいて、スライやサンタナ以外にも、シカゴ、マデュラ、アズテカ、マロといったロック勢の名が登場する。これぞ、リアル・クロスオーヴァー。