matt johnson

今のジャミロクワイを支えるキーボード奏者にして、ジェイ・ケイの創作パートナーとしても存在を大きくしているマット・ジョンソン。待望のリリースとなった初リーダー作が要注目だ。インコグニート総帥ブルーイ、ジャミロクワイのメンバーなど、アシッド・ジャズ系のキー・パーソンたちがゲスト参加しているが、インコグニートより本作とほぼ同時リリースされたシトラス・サンのニュー・アルバムの方が好き、なんてリスナーには、もう自信を持ってオススメしたい。それこそ「ジャミロクワイよりコチラの方が…」となるコトは請け合いだから。

キャッチコピーには、“ジャミロクワイ・サウンドよりメロウ&ジャジーに、アシッド・ジャズを現代版にアップデート… ”とあるが、この看板に偽りナシ。そもそもマットは、ジャミロクワイがジェイ・ケイのソロ・プロジェクト色を強くしてからのメンバーで、加入は2002年。アルバムでいうと、05年『DYNAMITE』、10年『ROCK DUST LIGHT STAR』、17年『AUTOMATON』に参加し、メキメキと存在感を大きくしている。最初はプレイヤーとしての参加だったのが、次は曲作りも、更にその次はコ・プロデューサー兼任、というように。

収録曲はすべてマットのオリジナル。でも70~80年代のジャズ・ファンク要素がとても大きく、空耳的というか、各パーツ各パーツの元ネタが時折透けて見えるので、思わずニヤニヤ。タイトル曲<With The Music>のベース・ラインは、ケニ・バークか?、とか、<Sunshine>のアイディアはラムゼイ・ルイス or ロイ・エアーズ?、とか。当然ジェイ・ケイのようなカリスマではなく、しかも人懐っこいブルーイより職人っぽくてモア・クール。ひたすら音楽で勝負してくる感がある。カナザワのようにハスに構えたリスナーなら、きっとそこに共感してしまうのではないかな。もっともPVとか見ると、子煩悩なファミリー・マンでもあるらしいけど。

リズム隊にはジャミロクワイの同僚ポール・ターナー&デリック・マッケンジーや、アシッド・ジャズ界の重鎮アーニー・マッコーン、プリンスが最後に組んだ変態超絶ベース奏者モノネオンアなど。ヴォーカルもシッカリ入っているが、シンガーをフィーチャーしたいわゆる歌モノの作りではなく、往年のシャカタクみたいに、遠くでやんわり歌やコーラスが聞こえるパターン。マットが自分でヴォコーダーを操っている曲もある。ちなみにヴォーカル陣は、かつてマットがサポートしていたローラ・ドゲット、マットの奥様で東京育ちの日系人タニヤなど。ブルーイは<The Return>でギターを弾いている。

でも何よりカンファタブルなのは、マットが繰り出すキーボード群の音像だ。ハービー・ハンコックとかジョー・サンプル、ボブ・ジェームス、あるいはロニー・リストン・スミスとか、ああいった70'sクロスオーヴァー感覚たっぷりの、揺らめくような音作りが堪らんチン。それを活かすため、サウンド全体が今様でありながら、音の隙間をたっぷり取った空間的音像になっている。ちょっと前に、90~00年代にエアリーとか言われた、あの感覚。その頃は、まるで効き過ぎのエアコンみたいだったけど、それが今は例え打ち込みでも、もっとリラクシンに生まれ変わった。アルバム終盤には、そうしたバレアリックな響きの楽曲もある。

そういえばマットは、星野源<うちで踊ろう>で勝手にコラボしたことで、ちょっとした話題になっていたな。