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このところニュースが途絶えていたルーマーの、6年ぶり5枚目のフル・アルバム。米国南部のアーカンソーやジョージアといった長閑なエリアに住み、結婚・出産・育児と並行して地元コミュニティとの関係を深め、美容室でアルバイトをしたりもしていたらしい。そうした ごくごくプライヴェートな時間を楽しんでいたルーマーだが、バート・バカラックやディオンヌ・ワーウィックのバンドでミュージカル・ディレクターを務める夫はツアーの連続で留守がち。そこで彼女もスタジオへ戻る決心をしたらしい。

彼女が向かった先はナッシュヴィル。受け入れたのは、個人的にチョッとビックリ、我が友人でもあるフレッド・モーリンだ。そして取り上げたのは、カントリー・フィールドの重鎮ソングライター;ヒュー・プレストウッドの作品集。隠遁生活を送っていた彼女は、この時期カントリー・ソングに夢中になっていたそう。前作がバカラック&デヴィッド作品集、更に2作目『BOY'S DON'T CRY』が男性シンガー・ソングライター名曲のカヴァー集(ジミー・ウェッブ、トッド・ラングレン、ポール・ウィリアムス、スティーヴン・ビショップ、ギルバート・オサリヴァン、ティム・ハーディン、レオン・ラッセル、ホール&オーツなど)だったように、ルーマーはオーガニックなカヴァー・チョイスにセンスの良さを感じさせるシンガーだが、彼女の目線は今、カントリーにあるらしい。

ヒュー・プレストウッドは、06年に"The Nashville Songwriters’ Hall of Fame" 入りしたソングライター。それを取り上げるキッカケになったのは、フレッドが3曲目<Oklahoma Stray>を送ってきたことだそうだ。元々はマイケル・ピーターソンというシンガー(元々はCCMのヒト)が歌っていた楽曲。それを機にアリソン・クラウスやトリーシャ・イヤーウッド、ジュディ・コリンズらが歌うヒューの曲たちに魅せられ、彼にコンタクトを取った。そして、まだ誰も歌っていない数多くの楽曲に触れ、そこに眠っているマジックに感動。単に有名曲をカヴァーするのではなく、アルバム1枚をヒュー・プレストウッド・ソングブックにしたいと願い出た。

最初にヒューを有名にしたジュディ・コリンズ<Hard Times For Lovers(永遠の恋人)>、アマンダ・マクブルームやシェナンドー、アリソン・クラウスらが歌った<Ghost In This House>、やはりロボや数組が歌っている<Here You Are>、トリーシャ・イヤーウッドの人気曲<The Song Remembers When>、そして締めにタニヤ・タッカーがチョイスしていた<Half The Moon>、ヒューの曲を好んで取り上げているマイケル・ジョンソンに至っては、この<Half The Moon>を筆頭に、<That's That><Learning How To Love><Bristlecone Pine>も歌っている。他にも<Heart Full Of Rain>など、カントリー系アーティストによると思しきピックアップがいくつかある。そこに門外不出だったヒューの未発表曲を追加したのが、この『NASHVILLE TEARS』だ。

フレッドの制作なので、セッションには知っている名が多いかと思いきや、ベースのラリー・パクストンくらい。でもダビングのストリングス・アレンジでは、ルーマーの夫やフレッドの元相方マシュー・マッコーリーも貢献している。ロングアイランドに住むヒューも、ナッシュヴィルのスタジオまで飛んできたそうだ。

日本でカントリーというと敬遠される傾向が強かったが、今をトキめくテイラー・スウィフトだって元々はカントリー出身。このアルバムにしたって、所々でカントリー系の楽器が鳴り響くものの、アメリカーナやルーツ・ミュージックにも理解が進んだ昨今なら、多少オーガニックに感じる程度で、まったく気にはならない。個人的には、ライオネル・リッチーが全米首位にして復活のノロシとしたカントリー・タッチのセルフ・カヴァー集『TUSKEGEE』(12年)に近いモノを感じるし、ソングブックという点では、アート・ガンファンクルのジミー・ウェッブ集『WATERMARK』、リンダ・ロンシュタット『CRY LIKE A RAINSTORM』を思い浮かべた。ジェニファー・ウォーンズ『FAMOUS BLUE RAINCOAT』のレナード・コーエン集もまた然り。こう書いていて気づいたけど、ソングブックってどれも「水」に関係しているね。ルーマーも TEARS だし。

コロナ禍でステイ・ホームの時間が増えた今、ゆったり穏やかなスロウ・ライフを送るのにジャストな一枚。そういう心の起伏を理解しようとせず、アレンジや演奏スキルだけで音楽を語るのはスキではないなぁ〜