onkyo house

 坂本龍一、松任谷由実、矢野顕子、佐野元春など日本を代表するアーティスト達がこよなく愛したレコーディングスタジオ、45年の歳月 ----

11月14日に公開されるドキュメンタリー映画『音響ハウス Melody-Go-Round』を、試写会でひと足お先に。出演者や詳細は公式サイトhttps://onkiohaus-movie.jp をご覧いただくとして、ココでは差し障りのない範囲で簡単なコメント・感想などを。期待感が高いのだろう、コロナ禍で収容制限のあるシートは、ほぼ満席に近かった。

まずお世辞ナシの率直な印象として、メチャクチャ面白くて勉強になった。特に、音楽制作の裏側、レコーディングという作業の内情を覗いてみたいと思っている音楽ファンには、まさしくドンピシャ。坂本龍一、松任谷由実&正隆夫妻、佐野元春、矢野顕子、鈴木慶一などなど、錚々たる顔ぶれが登場してくるので、名盤誕生のドキュメンタリーと思われそうだが、 実は彼らは主人公ではなく、ただ現場を知る証言者として登場してくる。各々のアルバムの制作秘話は断片的で、事細かに語られるワケではない。長期で日本滞在していたデイヴィッド・リー・ロス(ヴァン・ヘイレン)も登場する。

話の中心は、あくまで音響ハウス。それでも、その45年のヒストリーを時代を追って紹介していく内容でもない。佐橋佳幸とエンジニア:飯尾芳史が中心となった書き下ろしのテーマ曲<Melody-Go-Round>のレコーディングに密着しながら、レコーディング・スタジオとはどういう場所か、そこで生まれる音楽とはどういうものなのか浮き彫りにしていく、そのスクリプトが何より素晴らしかった。そこに集まったのは、高橋幸宏、井上鑑、葉加瀬太郎に、村田陽一や本田雅人らのホーン・セクション、大貫妙子と13歳のシンガーHANA。

音と歴史を刻んだ名門スタジオが次々に消え、ホーム・レコーディングが当たり前になっている昨今。コンピュータやプログラミングを駆使した一人多重録音では、奇跡は起こりえない。ファイル交換などで打ち込みのプリ・プロに他人の生演奏が加われば、多少のレヴェル・アップは望めるものの、そう飛躍的なモノになりはしない。人の手を通してたって、譜面通りのプレイならマジックなど起きない。

しかし、4リズムがスタジオに集まって音を出し、アイディアを持ち寄って意見交換しながら煮詰めていけば、1+1が5にも10にも増幅する。その場の成り行きで、用意していたせっかくの譜面があっさりボツにされたりも。
「事前に簡単な譜面を送っておくと、みんな自分が何を求められているか。どんな貢献ができるか考えて、ちゃんと膨らませてきてくれる」
セッション・リーダーである佐橋さんは、そんな旨を語り、そうした信用できる面々を呼ぶと仕事が捗るし、自分になかったアイディアが盛り込まれてスゴクよくなる、と言った。まさにスタジオとは、音楽を作る場であると同時に、それを媒介として人間同士のコミュニケーションを育む場でもある。一人でライン録りで音楽を作っていては、そういう化学変化は到底望めやしない。

“音響ハウスはシティ・ポップの総本山” という下りも出てくる。が、ここで言うシティ・ポップとは、創造力豊かで遊び心と大衆性を併せ持った70〜80年代の音楽の象徴として、だろう。大貫妙子が作詞とヴォーカル・ディレクションで新曲制作に関わっているあたりが、とてもシンボリックに感じられた。今ブームになっているシティ・ポップは、その古き佳き時代をスタート地点にしながらも、もう完全に一人歩きしていて、当時を知らない世代と言葉を解さぬ外人勢の解釈に翻弄され、既に別モノの様相を呈している。もちろんそれを否定するワケではないが、改めて “当時のシティ・ポップはこんなにもクリエイティヴだった” というのが伝わってほしいと願うばかりだ。

当時をリアル・タイムで知るウルサ型の音楽ファンが、頭ごなしに打ち込みを全否定するのは違うと思うし、生演奏ならOK、というモノでもない。現にこの新曲でもシークエンスを走らせている。それでいて、参加メンバーたちは、イクイップメントによるちょっとした音の変化にこだわり、微細なフレーズの違いやハーモニーの積み方に工夫を重ねる。youtubeやサブスクから流れる音楽を漫然と聴いているだけじゃ、その魅力の深さを見逃していることになる。それを慣れ流しと思うか、お宝と捉えられるか、聴き分けができるのか。音楽好きを自認する方なら、この映画を見て、いろいろ気づきがあってほしいと思うな。