awb_on the trip

ここ数年、オリジナル再発や各種ボックスが出たり、未発表音源集やレア音源集が組まれるなど、やたらとカタログ再発が行われているアヴェレイジ・ホワイト・バンド。直近で出た新編集CD5枚組ボックス『ANTHOLOGY』とか、ちょっとソソられるアイテムもあるけれど、もうサスガに手は出せず。いろいろ再発に関わせてもらった流れで、全盛期作品群はアナログとCDを併せて、トータル5セットぐらい持っているからね。でもアナログ盤で先月お目見えした『ON THE STRIP 〜 THE SUNSET SESSIONS』は、迷わずゲット。アートワークでピンと来る方もいると思うが、コレ、あの『SHINE』の40周年記念再構築盤。アラン・ゴーリーとヘイミッシュ・スチュアートのコメントも入った、180g クリア・ヴァイナル(透明ディスク)2枚組のスペシャル仕様で登場したのだ。

この『SHINE』は、80年に発表されたアヴェレイジ・ホワイト・バンド(以下AWB)の通算8作目のスタジオ・アルバム。デヴィッド・フォスターがプロデュース、ヒット曲<Let's Go 'round Again>や、後にチャカ・カーンで有名になる<What'cha Gonna Do For Me>のオリジナル版が聴けることで、特にAOR方面で人気がある。だが事情通ならご存知のように、このアルバム、実はビジネス的事情で大きく引き裂かれてしまった曰く付きの作品だったのだ。それを元通りのカタチで再提示したのが、この『ON THE STRIP 〜 THE SUNSET SESSIONS』。タイトルは、この音源がすべてハリウッドのサンセット・ストリップにあるスタジオ:サンセット・サウンドでレコーディングされたから、である。

以前から顔見知りになっていたAWBの面々とフォスターは、新作のレコーディングのため一緒にスタジオ入りしたが、その最中にAWBのレーベル移籍問題が勃発。それを解決するために、既にレコーディングが終わっていた<Kiss Me><Love Won't Get In The Way> <Love Gives, Love Takes Away> <Growing Pains>の4曲のテープを古巣アトランティックに渡し、自分たちはアリスタへ移って新作レコーディングを続けることになる。そして完成したのが『SHINE』。アトランティックはそれを追うように、A面:新曲/B面:ベストの『VOLUME VIII』を発売した。

だが『SHINE』の9曲(<Into The Night -Reprise>を入れると10曲)と『VOLUME VIII』の新曲4曲を足しても THE SUNSET SESSIONS にはならない。コトはそう単純ではないのだ。そもそもそれなら、カナザワ監修の15年再発盤『SHINE +4』で実現してしまっている。でも実は、この時に同じセッションで録音されたものの、長く陽の目を見なかった楽曲が2曲あるのだ。その1曲は、もうAWBファンやAORフリークにはお馴染みであろう、ボズ・スキャッグスのヒット<Miss Sun>のAWB版。元々この曲はデヴィッド・ペイチが結成間もない頃のTOTO用に書いたもので、米コロムビアとの契約を決めたキッカケの曲。TOTO自体はその曲を発表しなかったが(後に『TOTO XX』に収録)、これを聴いたボズが自分で歌いたいと申し出た。同じタイミングでAWBもレコーディングを済ませていたが、ペイチ側が競作になることを避け、ボズにしか使用許可を出さなかったという。それでAWBヴァージョンはお蔵入り。03年のUK編集盤に収められたのが初出で、当時かなり興奮したのを覚えている。もう1曲の<Wasn't Your Friend>は、ラリー・ジョン・マクナリーの提供曲。彼が自分のデビュー作『LARRY JOHN McNALLY(シガレット&スモーク)』(81年)に入れることにしたので発表を控えたか、コチラは14年の全部入りボックス『ALL THE PIECES - The Complete Studio Recordings 1971-2003』に未発表曲として初収録されるまで世に出なかった。この16曲が、現時点で明らかにされた 79~80年 THE SUNSET SESSIONSの全貌である。

しかしその先にまたオチが。おそらくはアナログ盤の収録時間の問題だろう、全16曲を2枚組に収めることができず、3曲がオミットされてしまった。<Into The Night -Reprise>は当然のこと、『SHINE』からの人気高めの2曲、<Our Time Has Come>と<Help Is On The Way>が削られたのだ。

一般的知識でいうと、元々アナログLP1枚半+2曲なのに、それが2枚組に入らないというのは解せないだろう。しかしそこは一度は廃れてしまったアナログ製造技術。いくら最新テクノロジーを使ってマスターに記録された音が素晴らしくても、それをヴァイナル盤に刻むカッティング技術が追いついていなければ、イイ音のレコードにはならない。早い話、出来上がった音をそのままの音質で溝へ落とすには、盤片面の収録時間に限界があるのだ。ちょうど山下達郎のアナログ・リイシューが話題だけれど、氏がこのところずっと2枚組仕様でアナログ再発しているのは、昔と同じ1枚モノでは、納得できる音質を維持できないからである。

こうしてCDなら何の問題もない尺の問題が、アナログ盤では起きてくる。この原因が、リミックスやリマスターによって音圧が上がった結果として盤面のグルーヴ(溝)に余裕が必要になったのか、あるいは昔気質の職人技を持つカッティング・エンジニアが不在で、アナログ全盛期の製品レヴェルが保てないのか、そこは分からない。もしかしたらその両方が理由で、高い技術力が求められているところに、現場はむしろ技術が低下しているのかもしれない。CDのプレス工場にこだわるアーティストもいるのだから、技術の差がより出やすいアナログでは、ダブル・アルバムで音質を保つのが、現状最善策かもしれない。でもそのツケは価格に跳ね返り、エンド・ユーザーを直撃する。それもあって自分は、オリジナル盤を所有している作品のアナログ・リイシューには、安易に手を出さない。でもこのAWB盤のように、作品としての新しい価値を見つけ、斬り口を変えて購買意欲をグリグリされてしまうと、コロッと簡単に買ってしまうんだよな… そしてまた、オミットなしのフル・スペックCDが出たら、きっとそれもポチってしまうだろう

あ、最後にひとつ。『SHINE』にも『VOLUME VIII』にも名前のなかったジェイ・グレイドンが、Additional Guest Musicianとして新たにクレジットされている。…ということは、今まで収録はあってもクレジット詳細が明らかでなかった<Miss You>か<Wasn't Your Friend>でギターを弾いていたのか。もしくは今までのクレジットがミスだったのか。そこが謎だ…