bacharach_blue umbrella

心にシンと沁みる名盤の誕生。バート・バカラック、92歳のニュー・アルバムが素晴らしい。相方のダニエル・タシアンは、ナッシュヴィル在住のソングライター/プロデューサー。ヴォーカルはすべてダシアンで、バカラックは作編曲+ピアノ2曲。本人が演奏に参加していないのは、コロナ禍による移動制限が原因だそうだ。

タシアンは昨年のグラミーで、アルバム・オブ・ザ・イヤーに輝いたカントリー・シンガー:ケイシー・マスグレイヴス『GOLDEN HOUR』をプロデュースしていた人。バカラックもそれを聴いて、プロデューサーのタシアンを意識するようになったようだ。そしてグラミー授賞式の翌日、初めての対面をした。

「すぐに一緒に曲を書き始めたのですが、一緒に仕事をすればするほど、気を使わなくても良いなんとも言えない心地よい間柄になっていったのです。彼は私の友人であり、とてもマルチな才能の持ち主。作詞、作曲、歌唱の3拍子揃った素晴らし逸材です」(バート・バカラック)

元々は、バカラックが最近一緒に曲を書いたメロディ・フェデラーが、その曲のレコーディング・プロデューサーにタシアンを起用し、バカラック・ファンだった彼に「バートに歌詞を送ってみたら?」と声を掛けたことが始まり。そして最初に誕生したのが、タイトル曲<Blue Umbrella>。それを初めての対面で聴かされたタシアンが大感動し、L.A.滞在中はバカラック家に詰めて2人で曲作りに没頭したという。ちなみにタシアンは74年生まれの46歳。かなりの歳の差コラボだ。

バカラックにとって新曲オンリーの新作は、05年作『AT THIS TIME』以来15年ぶり。最初は5曲のみのデジタル・リリースだったが、それがあまりに好評だったので急遽2曲がボーナス追加されて全7曲。フィジカルCDの発売は日本だけで、輸入盤は5曲収録のCD-Rらしい。しかも解説は超大御所の朝妻一郎さん。とても価値のある日本盤CDである。

タシアンのヴォーカルは、正直なところ、バカラックが絶賛するほど上手くはない。でもいわゆるソングライター・ヴォイスというヤツで、作った者にしか表現できない味わいがあり、これらの楽曲を歌うにはベストの選択だと思う。また曲によってはストリングスがキャストされているが、いわゆるオーケストラ然としたものではなく、多くてカルテット止まり。その規模感がヴィヴィドにシンと響いて、ちょっと儚げで、すごく染みるんだな。バカラックが「これは計画されたものではない」と語っているが、キッチリとスケジュールされていたら、もっとゴージャスに作り込まれていたはずで。でもそれでは、この質感・空気感は創出できない。ある意味、コロナのパンデミックだからこそ、偶発的に生まれた快作。バカラックがレコーディングの場にいたのはわずか2曲なのに、全7曲、隅々までバカラックの息遣いが聞こえるよう。そこがきっとタシアンのプロデュース手腕なのだろうな。

92歳のバカラック。まさに達観の名盤。