till bronner_bob james

コイツはメチャメチャ洒脱なアルバム。大ベテランのボブ・ジェームスと、ヨーロッパ中心に圧倒的な人気を誇るドイツ出身のトランペット奏者ティル・ブレナーという初顔合わせにまずヤラれ、次いでノルタルジックな映画から抜け出してきたようなヒップなジャケにまたヤラれ…。そのくせアルバム・タイトルは『ON VACATION』と、ヒネることなくド直球。ソニー系列のMasterworks発信だけれど、果たして国内盤は出るのかしらね? 

フォープレイではピアノ・プレイにこだわっていたボブだけに、ここでも詩情溢るるリリカルなアコースティック・ピアノ&エレキ・ピアノは健在。そしてそこにティル・ブレナーのトランペット&フリューゲル・ホーンがエレガントに絡みつく。作品の基調はムーディーなスロウ・チューン。スウィンギーというより、気品の高いクラシカルな格調が漂う。

ティルといえばヴォーカルも素晴らしいけど、ここでは歌っているのはわずか3曲で、少々物足りない。が、その中にペイジスのカヴァー<I Get It From You>があって感激。この曲はかつてハーブ・アルパートがカヴァーして、自身のヘタウマなヴォーカルを披露していた。けれどそこはサスガにティル・ブレナー。ほのかにソウルフルなペイジスとも違う解釈で、ちょい軽めに歌いさらす。タイトル曲<On Vacation>は、もろにマイケル・フランクス調。ティルの十八番のスタイルだ。もう1曲の歌モノ<Lemonade>は、早めのテンポのボッサに仕上げている。

収録曲の多くはティル、ボブ、それぞれの持ち寄り。とはいえオープナーの<Save Your Love For Me>はバディ・ジョンソン作のスタンダードで、キャノンボール・アダレイのクインテットでナンシー・ウィルソンが歌ったのが有名か。最近じゃホセ・ジェイムスも歌っていた。<September Morn>はニール・ダイアモンドとジルベール・ベコーの共作で、 ニール自身が79年に発表している。また<Sunset Vale>は、何曲かでドラムを叩いているハーヴィー・メイスンの提供。

そういえばこのアルバム、どの曲もボブのピアノ(キーボード)トリオにティルが乗るだけの、超シンプルなカルテットで録音している。しかもベースはウッドで、ジックリゆったり、豊潤な時間が流れていく。コロナ禍の巣篭もりナイト、気持ちだけは何処までもゴージャスに…。