kem 2020

昨年 創設60周年を迎えたモータウンの創成期を追ったドキュメンタリー映画『HITSVILLE:THE MAKING OF MOTOWN』が昨今の話題。けれど今のモータウンを代表するR&Bアクトは、このKEMである。9月末に6年ぶりのニュー・アルバム『LOVE ALWAYS WINS』が発表され、安定したKEM節を堪能。でも日本では、ソウル・ファン以外の知名度に乏しい気がして、ココにはアップしなかった。とはいえ、それ以来自分でその手を聴こうとすると、コレばかりに手が伸びてしまう。ソウル/R&B系ニュー・カマーを追うことは、もうスッカリ諦めてしまったカナザワだけど、KEMに関しては05年の2作目からずっとご贔屓。程よいオーセンティックさがあって、決して裏切られるコトがない。

その魅力は、シンプル・イズ・ベスト。ポップ・シーンにクロスオーヴァーしたかったルーサー(ヴァンドロス)が踏み外してしまったその道を、彼は果敢に守り抜いている、そんな気がする。もちろん時代が違うので、自ら積極的に外へ攻めていったルーサーと、やたらと増えた同系アーティストとの差別化を図ることが重要な現行アクトを一緒には語れないだろう。でもスティーヴィー・ワンダーでさえモータウンを離れてしまうご時世にあって、ナッシュヴィルに生まれデトロイトで育ったKEMが、デビュー以来20年近くモータウンに留まり、米国では立派に人気を確立したことに、強い気概を感じずにはいられない。

例えば、<What's Goin' On>がまんま歌えそうなトニ・ブラクストンとのデュエット<Live Out Your Love>は、かのポール・ライザーが弦アレンジを手掛けていて、現在は博物館になっているヒッツヴィルUSAのスタジオAでそれをレコーディングしている。そういう男なのだ、KEMは。エリカ・キャンベルと謳っているタイトル曲にしたって、まるでアル・グリーンのような歌いっぷりだし。一方<Lonely>では、スムーズ・ジャズ系のファンキーな鍵盤奏者ブライアン・カルバートソンをゲストに迎え、ナチュラルにそれっぽく。ベイビーフェイスを激渋にしたようなスターター<Not Before You>、アンソニー・ハミルトンらと共作したリード曲<Lie To Me>のアーベインに畳み込む感じ…。スキンヘッドの精悍な顔つきには武闘派シンガー的イメージがつきまとうが、その歌い口は内省的で、インテリジェンスとエレガンスを纏う。でもその奥底に、内なるエモーションが静かに湧き上がるのが伝わってくるから、KEMに魅せられてしまうのだ。