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9日発売の、カナザワ監修、ユニバーサルミュージック『初CD化&入手困難盤復活!! AOR ~ Light Mellow 1000』シリーズから、注目盤のご紹介3回目。初CD化ではないが、日本での復刻は21年前と超絶久しぶりのロビー・デューク、デビュー作を。中古盤も高騰プレミア化していたし、アナログも安くはない。でもエヴァーグリーンな内容で、ニーズは今も高い。だから今回の廃盤復活群では、最注目の1枚と言える。カナザワ自身にとっても、脱サラして音楽モノ書きに転身した前後の最も初期の解説執筆で、そういう点でも思い入れの強い作品。もちろん今回のライナーは新規に書き下ろしている。

邦題は『ロング・アフタヌーン』と雰囲気たっぷりながら、原題は『NOT THE SAME』。オリジナル・リリースは82年。日本のAORシーンでは、ブルース・ヒバードと並ぶCCM人気盤だ。当時はこのあたりからCCMに触れた人が多かったのでは? 

CCM = Contemporary Christian Music とは白人のゴスペル・ミュージックのこと。音楽性はフォークやポップス、ロック、カントリーからヘヴィ・メタル、ラップまで様々で、歌詞がリリジャス。AORスタイルが音楽シーンの潮流だったこの頃は、CCMにもその手のサウンドを目指す者が多かった。元々は教会や布教イベントでレコードを手売りしていたが、エイミー・グラントがデビューしてアイドル的人気を博したのを機に流通網が整備され、メジャー・レコード会社が進出。ロビーが契約した MCA Songbird も、そうして誕生した専門レーベルのひとつだった。

ロビー自身が生前、「僕のベスト・マテリアルのいくつかがココに収められている」と語っていたこの1st アルバムは、いきなりのベスト・トラック<Love Is Here To Stay>から軽快にスタートする。美麗なストリングスが聴きモノのミディアム<Time To Stand>、タイトなグルーヴでドライヴする<Seasons Of Change>、そして<Carpenter>は本作屈指の美メロ・バラード。更に朗らかなミディアム<Feel It Comin'>、ジャズ香漂う<O' Magnify The Lord>と続き、ブルース・ヒバード提供<Can't Stop Runnin'>へ。ロビーのレーベル・メイト:マーティ・マッコールも、アルバム『UP』(81年)で取り上げていた。ジェントル・ミディアム<Rested In Your Love>、軽やかなグルーヴのタイトル曲<Not The Same>を挟んで、ラストのスロウ・チューン<Promised Land>。これはジム・シュミットの人気盤『SOMETHING' RIGHT』(82年)でも取り上げられている。

もうひとつの注目は、バックのサポート陣。ハドリー・ホッケンスミス(g)とアレンジも担ったハーラン・ロジャース(kyd)は共に、エイブラハム・ラボリエルも在籍したコイノニアのメンバー。彼らはそのまま、当時 “ゴスペル界のクインシー・ジョーンズ” と謳われた故アンドレ・クラウチのブレーンでもあった。そして、恐らくはプロデューサー/エンジニアのジョナサン・デヴィッド・ブラウンの手引きだろう、彼が本作と同時期にプロデュースしていたCCMの新人バンド:タマラックの面々、バンドの中核ロブ・ワトソン(kyd)、秘密兵器的存在の超絶技巧ベーシスト:ジョン・パティトゥッチらが参加している。パティトゥッチと言えば、チック・コリア・エレクトリック・バンドでの衝撃的デビューが鮮烈だが、それは86年のこと。そもそもチックに発掘されたのが84年頃なので、このロビーのアルバム参加当時はまだ20歳そこそこで学生だったようだ。…にも関わらず、ロビーやハーラン・ロジャースとアレンジを分担し、<O' Magnify The Lord>を提供しているのだから、やはり天才肌と言える。本作のフレッシュなテイストも、快活で動きのあるパティトゥッチのベースあればこそ、かもしれない。

ロビー自身は本作後も、84年『COME LET US REASON』、86年『BLUE EYED SOUL』、89年『DOWN TO BUSINESS』など計6作をマイペースで発表しながら、プロデュース・ワークのほか、デニース・ウィリアムスに楽曲提供したり、アイスランドのジャズ・ファンク・バンド:メゾフォルテにゲスト・ヴォーカルで迎えられたりも。並行して音楽関連のコンピュータ・ソフト開発会社の経営にも携わっていた。しかし、ちょうど12年前の08年12月、愛息とクリスマス・ライヴのステージに上がった2日後に急逝している。

それでも、本作US盤のアートワークで見られる笑顔は、彼のあったかな歌声と人柄を表しているよう。当時28歳前後とは俄かに信じがたいが(失礼…)、オシャレAOR風情のイメージの下には、実はソフトにマスキングされた宗教色があった。ここで歌われている HE とは、ズバリ “彼” ではなく、ジーザス・クライスト。前回CD同様、今回の復刻でも、敢えて国内盤/US盤のリバーシブル・ジャケット仕様をリクエストさせて戴いたが、そこには、普遍的魅力を放つモノはちゃんと生き残る、という想いが籠められている。

初CD化&入手困難盤復活!!『AOR ~ Light Mellow 1000』
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