tom grant

クロスオーヴァー/フュージョン、コンテンポラリー・ジャズのピアノ・プレイヤーとして活躍するトム・グラントの81年盤2nd。もっとも1作目『MYSTIFIED』はオランダの新興ジャズ・レーベル:タイムレスからの発売で、日米では未発売。カナザワがトム・グラントを知ったのは、ジャケにひらがなで “ねこ” と書かれた84年作『HEART OF THE CITY』が最初(ネコっぽい顔なのヨ)で、タイムレス盤の存在は最近まで知らず、ずっとこのWMOT盤『YOU HARDLY KNOW ME』がデビュー作だと思っていた。

5年前に初めて日本に紹介された『MYSTIFIED』のオビには、“後年AORシンガーとしても活躍する” なんて嘘ッパチが堂々書かれていて苦笑するが、トムがヴォーカルも結構イケるのは事実。実際このWMOT盤も半数ほどがヴォーカル曲で、初めて聴いた時はちょっと驚いた記憶がある。後続作でもシッカリと歌モノ曲を収録していたものの、歌っていたのは確か2〜3曲だけで、それほどヴォーカルに比重をかけていなかったはずだ。

しかも、このアルバムのヴォーカル・チューンは、単に本人が歌っているだけではなかった。何と2曲に女性シンガーを呼んで一緒に歌うなど、かなりマジメに取り組んだ歌モノなのだ。まずタイトル曲は、ポーリン・ウィルソンを髣髴させるパンチ力を持った地元オレゴンのシンガーをフィーチャー。そしてリード曲でもあったメロウ・ミディアム<Heaven Is Waiting>は、かのパトリース・ラッシェンとのデュエットだ。この曲は00年代に入ってクラブ・シーンで発掘され、今ではその筋にもよく知られる人気曲になっている。

他にもジェフ・ローバーがシンセで客演していたり、故トニー・ウィリアムスがドラムを叩く曲があったり。80年代から90年代前半の作品群は、スムーズ・ジャズ以前のライト・フュージョン人気が高かったこともあって、煌びやかなアコースティック・ピアノを前面に押し出していた印象がある。でもこのアルバムは結構シンセを弾いていて、全体的にグルーヴィーなアンサンブル重視の内容。トムが歌う<Whatever Feels Right>はほとんどポップ・ロック・チューンで、確かにこのセンで進めていったらAOR作品になっただろう。コーラス参加のボブ・ジェイムスは、もちろんピアノ奏者ではなく、サミー・ヘイガーの後任としてモントローズに参加していたシンガー。そういえばトムは、フランク・ザッパ〜ミッシング・パーソンズのパトリック・オ〜ハ〜ン(b)と一緒に活動していた時期もある。

インスト曲だとウェザー・リポートやリターン・トゥ・フォーエヴァーの影響を感じさせたりもするが、総じて小振り。なるほど、時代の変遷と共に分かりやすい方向へシフトしていった事情が窺える。考えてみればトムは、AORがクロスオーヴァー・スタイルの歌モノ表現であることを体現していたのだな。