judy roberts_other world

ジャズ・ピアニスト:ジュディ・ロバーツといえば、今ではスッカリ、レア・グルーヴ〜フリーソウル系のクラブ・シーンで発掘された人、というイメージだろう。でも実際は、80年代初頭の早耳フュージョン・ファンの間では、実はそれなりに注目されていた。最初は、当時輸入盤でベスト・セラーになったダン・シーゲル『THE HOT SHOT』『OASIS』を出したインナー・シティ・レーベル発、というコトで注目されたのかもしれないが、既定のロック・フュージョンでもカッチリしたバンド・スタイルのサウンドでもなく、4ビートと16ビートを自在に行き来するような、ブラジリアン・フレイヴァーを織り交ぜた自由度の高いリアル・クロスオーヴァー。こうしたタイプって、強制的に型に嵌められたら文句垂れるクセに、実際は自ら迎合して安心したがる日本人には、一番苦手なスタイルかもしれない。

先月リイシューされたのは、自らのバンド名義で発表した79年デビュー盤に続く、ジュディにとっての2作目。とはいっても、デビュー盤と同じウィスコンシンのスタジオで録られて、1枚目と同じギタリストとパーカッション奏者を含むバンド・フォーマットでレコーディングされている。その1枚目は当初、Madonnaなるローカル・レーベルからリリースされたが、すぐにそれをインナー・シティが買い上げて全米リリースした。インナー・シティはニューヨーク本拠のレーベルで、海外原盤のジャズ・アルバムをUSリリースしつつ(邦人ジャズ・アーティスト多数)、彼女やダン・シーゲル(シアトル出身)のように優秀なローカル・ミュージシャンを発掘して全米デビューさせている。元々ジェフ・ローバーも、このインナー・シティから登場した。

ジャズ・ピアニストらしく、作曲よりも演奏に傾倒しているようで、自身のオリジナル楽曲はナシ。メンバーであるギタリストの提供曲以外は、ガトー・バルビエリやホレス・シルヴァー、セロニアス・モンクなどのスタンダード曲をモダンかつフレキシブルなコンテンポラリー・ジャズ・アレンジで聴かせる。その色合いを決めるのは、むしろピアノではなく、軽やかで奔放な彼女のヴォーカル。特にブラジリアン・テイストのアレンジが絶品で、リーサル・ウェポンとも言えるコケティッシュなスキャット・ヴォイスにまずヤラレる。その歌声の小悪魔的魅力が最高に活かせるような、キャッチーでウキウキするラウンジ・ジャズが、彼女の真骨頂なのだ。

そしてジャズ・スタンダードに混ぜるポップ・チューンのカヴァー・チョイスが、センス抜群でかなりヤバイ。この『THE OTHER WORLD』でいうと、オープニングからしてジノ・ヴァネリ<The River Must Flow>だし、アル・ジャロウでお馴染みのレオン・ラッセル楽曲<Rainbow In Your Eyes>もキモ。少しミステリアスにスタートするジノ楽曲も、プログレ・トーンのシンセを駆使した懐の深いアレンジで、緻密なアレンジのオリジナルとはまた違った表情を与える。この曲のカヴァーで斬新だったのは、渡辺香津美/坂本龍一によるKYLYNのヴァージョン(Vo.は矢野顕子)だけれど、双方ともヴォーカルが天然系の天真爛漫さで共通していて面白い。シティ・ポップ人気のスーザン・アントン版は、きっとコレをヒントにしたのだろう。後者のレオン・ラッセルは、高速ジャズ・サンバ風のアレンジ。エレピとギターのソロに導かれ、最後はジュディの絶品スキャットとシンセのユニゾン・ソロに展開して昇天する。

アコースティック・ピアノでは小気味良いパンチ力、エレピでは瑞々しさ、シンセでは斬新さを打ち出しつつ、その持ち味をヴォーカル/スキャットのフレキシビリティで倍加させる。ブラジリアン・ジャズというほどトロピカルではなく、AORナンバー拡大解釈のジャズ・ヴォーカル・パターンとして面白い。もしかして、既成概念で凝り固まった頭を揉みほぐしてくれる一枚になるのでは?