レココレ2

お知らせが遅くなってしまったが、準レギュラー的に執筆しているレコードコレクターズ誌の最新2021年2月号の特集『この曲のドラムを聴け!』に寄稿している。20人の常連ライターがそれぞれ20曲、ドラムが印象的な楽曲をリストアップし、その中から編集部が101曲に選りすぐって、それをまたライター陣が何曲かづつレビューしていくもの。カナザワも20人/20曲をセレクトし、テリー・ボジオ<The Only Thing She Needs / U.K.>、ジェフ・ポーカロ<Rosanna / TOTO>、ヴィニー・カリウタ<Santa Rosa / Gino Vannelli>、サイモン・カーク<Can’t Get Enough / Bad Company>、ドン・ブリュワー<We're An American Band / Grand Funk Railroad> などにコメントしている。それ以外のドラマーは、楽曲やアルバムこそ違えど、ほぼ選んだ全員が選出された。



ハル・ブレインやクライド・スタッブルフィールド、アル・ジャクソンなど、主に60年代に活躍したセッション・ドラマーが多いのは、テクニック志向に走らない この雑誌ならではの特徴。そもそもジャズ作品はハナから対象外であるし。

そんな中、カナザワの一票が完全スルーされたのが、マーク・ナウセフというドラマーである。楽曲はイアン・ギラン・バンドの77年作『CLEAR AIR TURBURANCE(鋼鉄のロック魂)』のタイトル曲。イアン・ギランにとっては、ディープ・パープル脱退後の隠遁生活から復帰しての、バンド名義による2作目に当たる。でもまだ活動的には手探り状態だったのか、音楽的にはメンバー任せで、今ひとつ、バックの演奏とイアンのヴォーカルが噛み合ってない感があった。でもそのバンドには、元スペンサー・デイヴィス・グループ出身のレイ・フェンウィック(g)、クォーターマス〜ハード・スタッフ〜ロキシー・ミュージックを渡り歩いたジョン・グスタフソン(b)、新人で後にイアンの右腕となるコリン・タウンズ(kyd)、そしてドラムに末期ヴェルヴェット・アンダアーグラウンド〜エルフのナウセフ、という布陣。ロニー・ジェイムス・ディオを擁したエルフは、リッチー・ブラックモアのパープル脱退に際してレインボーに衣替えするが、そこに汲みせず、イアンの復帰作『CHILD IN TIME』をプロデュースしていたロジャー・グローヴァーの要請に応え、イアンのバンドに参加したと思われる。バンドのまとめ役はフェンウィック。この人、ギタリストとしては地味なイメージだが、少し前までファンシーというバンドを組んでいた。このファンシーのベースがモー・フォスター、ドラマーがレス・ビンクス。ビンクスはジューダス・プリーストのサウンドを変えたと言われる<Exciter>で叩いた人で、助っ人参加していたサイモン・フィリップスの代わりに、ロジャーがジューダスに紹介したらしい。う〜ん、人脈がドンドン繋がりますな。

さて、ナウセフ。『CLEAR AIR TURBURANCE』がスゴイのは、とりわけドラムとベースのコンビネーション。エフェクティヴなグスタフソンのドライヴするベースと共に、滅茶苦茶スリリングなグルーヴを生み出している。特にエスニックなパーカッション類が特徴的で、とてもイアン・ギランのアルバムとは思えない。イヤ実際ココでは、ウギャオ〜をシャウトするイアンの方が完全に浮いていて、リズム隊は16ビートも変拍子も自由自在。ナウセフは後に、シン・リジィでブライアン・ダウニーのトラを務め、それが縁でゲイリー・ムーアとG.フォースを組む。そのG.フォースが短命に終わった後は、ロックを逸脱した前衛的ソロ作も何枚か出している。

ゲイリー・ムーアとのG.フォースも、元々はゲイリーとマーク、グレン・ヒューズのパワー・トリオの計画だったらしいが、ゲイリーとグレンの間に確執が生まれ、代わりにトニー・ニュートン(b)、ウィリー・ディー(vo)が参加した。アルバムのクレジットは、トニーがVo、ウィリーが bになっていたが、実は逆。黒人のトニーはトニー・ウィリアムス・ニュー・ライフタイムでプレイしていた人で、その時のギターはアラン・ホールズワース。その後ツイン・ネックのベースを操ってソロ作も出している。ウィリー・ディーは本名ウィリー・ダファーン。彼は、パープルの初代シンガー:ロッド・エヴァンスがアイアン・バタフライのメンバーと組んだキャプテン・ビヨンドが、エヴァンス抜きで再結成した時のシンガーだ。このバンドのドラムは、ジョニー・ウィンター・アンドの名ドラマー:ボビー・コールドウェル(AORの人とは別人)だった。

イアン・ギラン・バンドであれ、ゲイリー・ムーアのG.フォースであれ、ハード・ロックに軸足を置いてクロスオーヴァー化を目指す時に重用されたナウセフ。どこかでシッカリと評価されて欲しい実力派である。