kool & the gang_as one

AORディスクガイド制作中お悩み日記(?)、2日間の産業ロック編に続いてはソウル〜R&B編。もっともコレは、20年前のオリジナル『AOR Light Mellow』の時に、ひとつの指針を立てている。リオン・ウェア82年作やディオンヌ・ワーウィック『FRIENDS IN LOVE』、フィニス・ヘンダーソン、スティーヴー・ウッズ、レスリー・スミスといったブラックAOR系は迷うことなく掲載した一方で、その指針を頼って、キューバ・グッディング1st や ビル・ウィザーズ『WATCHING YOU WATCHING ME』など、本来はAORにはカテゴライズされないシンガーも一緒に載せた。それなりに異論はあったと思うが、AOR解釈の幅を広げた点では、結構意義のあった判断だったと自負している。

で、その時の条件は、黒人アーティストが看板を張った作品の場合は、作編曲やプロデュース、参加ミュージシャンなどの重要局面で白人クリエイター/ミュージシャンがを手腕を発揮していること。でも自分で決めたその基準のために、掲載を断念したアルバムが少なからずあった。前回はページ数、紹介できる枚数に限りがあったため、何処かに厳しい線引きが不可欠だった。

…して今回の Premium。思い切って3冊シリーズにしたことにより、クオリティ的に一定レヴェルを越えれば、かなりの自由裁量で載せるか否かを判断できる。それでもAORという括りでガイドを示す以上、ジャンル/スタイル的な基準は必要。なので今回は、純粋に音楽的なクロスオーヴァー度で判断するようにしている。ソウル〜R&Bだからアップがファンキーなダンス・チューンになる、バラードがエッチでムーディーに仕上がるのは、言わば当たり前。やはりキモは、ミディアム〜ミディアム・スロウの出来栄えに掛かってくる。その上で作品トータルでのアーベイン度、ソフィスティケーション指数がキメ手に。基本は歌モノだが、その点で楽曲の魅力やオケとのバランスが重要なポイントになる。

そこでこのクール&ザ・ギャング。J.T.テイラーがシンガーとして加入し、エミール・デオダートがプロデュースに就いてからの彼らは、モダン・ポップなダンス・チューンを連発して、一躍人気アーティストになった。その一方で、アルバムには必ずメロウなミディアム・スロウを収め、支持層を拡大。<Too Hot>は全米ポップ・チャート5位、<Joanna>と<Cherish>は共に同2位と、クロスオーヴァー・ヒットになっている。これらの曲はいずれもAORといって良いだろう。万人向けなので軽く扱われがちなのは、エア・サプライにも通じるけれど、やっぱりイイ曲はちゃんと押さえておきたい。

でもそれぞれの収録アルバムに立ち返ると、当然ながらBPM高めのポップ・ダンサーが中心。ただ出自が異なるのは分かっていても、せめて3曲ぐらいはコッチ寄りのトラックが欲しいところだ。なのに彼らにはそれがない。どのアルバムを取り上げても、1曲絶品AORナンバーがある、その程度に止まってしまう。J.T.テイラー期の『LADIES' NIGHT』(79年)から『CELEBRATE!』、『SOMETHING SPECIAL』、上掲『AS ONE』、『IN THE HEART』、『EMERGENCY』、『FOREVER』と、選ぶ気満々で聴き進めても結局似たり寄ったりで、アルバムは何もチョイスできなかった。それじゃあいっそのコト、バンド主導のベスト盤『EVERYTHING IS KOOL & THE GANG - Greatest Hits & More』でも…、と思ったが(ガイド本ではベストは基本的に対象外)、コレも大ヒットした前述3曲は入っているものの、他はセオリー通りのダンス・ポップ・チューンばかりで、AOR的には役に立たない。あ〜、どうしましょ…

1曲キラー・チューンがあればOK、という類いのガイドではなく、アルバムとしてリコメンドできる作品を紹介するのが本書の趣旨。なのでこういう悩みは往々にして発生するのだけれど、クール&ザ・ギャングに関しては、今のところ解決法が思いつかない。それこそ、<Too Hot><Joanna><Cherish>に、上掲『AS ONE』のタイトル曲や<Think It Over>、更に<Jones Vs. Jones><Love Affair><Pass It On>あたりを追加して、『Light Mellow KOOL & THE GANG』でも組まないとダメだわ…