gary benson

「あ、揺れてる!」「地震ですね」
「……」「結構デカイな」
ガッシャーン 隣の部屋で何かが落ちた。
「ヤバイですね」「…だな。また掛けるわ」
10年前の3.11。その瞬間、自分は仕事相手と電話で打ち合わせをしていた。
落ちたのは、棚の上のパネル。ただ後で庭を見たら、昔からある石灯篭が崩れ、円盤状の石が真っ二つに割れていた。
それからTVに貼り付いて数時間。あのショッキングな日のことは忘れることができない。10年目のこの日はカレンダー上は節目かもしれないが、決して区切りではない。

さて、震災とは関係なくご紹介するのは、英国のシンガー・ソングライター:ゲイリー・ベンソン。当ブログ的には、80年の5作目『MOONLIGHT WALKING』で有名か。プロデュースにフレッド・モーリン&マシュー・マッコーリー、参加メンバーにはスティーヴ・ルカサーやラス・カンケルらが名を連ねた一枚で、初版の『AOR Light Mellow』から掲載している。とはいえ、アーティストというよりソングライターとして知られる人で、ベンソン自身の歌で全英20位になった<Don't Throw It All Away(恋にさよなら)>は、シャドウズ、オリヴィア・ニュートン・ジョンやデルフォニックスも歌った。またジョン・トラヴォルタが全米トップ10入りさせた<Let Her In>とトップ40ヒットの<Whenever I'm Away From You>、そしてマキシ・プリーストの全米No.1ヒット<Close To You>も、この人の作/共作曲である。

70年発表の本作『REUNION』は、ゲイリー・ベンソンのデビュー作。ここからはジョージィ・フェイムが<Going Home>をカヴァーし、アルバム・タイトにも使った。時代的には当然AORではないどころか、プレAORとも呼べそうもない甘めの王道ポップス。ストリングスやオーケストラを有効に使い、鍵盤もピアノよりハープシコード使いが耳に残るような、英国産らしいバロック・ポップ・スタイルと言える。一部では、“英国のジミー・ウェッブ” という異名を取っていたほど。『MOONLIGHT WALKING』の頃はヘタウマとさえ言えないようなヨレヨレのソングライター・ヴォイスだったけれど、この頃はまだアーティストとしてデビューしたばかりで、結構マジメにヴォーカルに取り組んでいたようだ。おそらくは、ゾンビーズや初期ビー・ジーズあたりのセンを狙っていたのだろう。

ちなみに本作は、<Don't Throw It All Away>がヒットしていた頃、『GARY BENSON』というタイトル、アートワークも若干修正されてリイシューされていた。