cheap trick 2021

コロナ・パンデミックの影響で活動スケジュールに支障が出ているとはいえ、近年のチープ・トリックはすこぶる精力的。2017年にオリジナル・アルバム『WE'RE ALL ALRIGHT!』とクリスマス・アルバムを出して以来、約4年ぶりとなる20作目のオリジナル・スタジオ・アルバム『IN ANOTHER WORLD』が届いた。プロデュースはバンドと、06年からずっと蜜月関係にあるジュリアン・レイモンド。それだけ好調を維持しているワケだけど、これはズバリ、その中でもかなりの傑作なのでは?

いわゆるパワー・ポップ系のロック・バンドの中でも、デビュー44年目にしてコレだけ溌剌としたキレッキレの音を聴かせるのは、このチープ・トリックだけだ。デビュー・アルバムにヤラれ、彼らの世界的出世作となった『AT BUDOKAN』の時も観に行ってただけに、思い入れはそれなりに深い。それこそココまで吹っ切れてると、もう御託など並べず、無条件で応援したくなる。<Light Up The Fire>なんて、自分がチープ・トリック好きになったキッカケの1曲、<The Ballad Of TV Violence>(1st所収)みたいにギンギラギン パンク並みにザックリした音と荒っぽい疾走感が、バリバリに戻ってきている。バンドの頭脳でおちゃらけ役でもあるリック・ニールセンが兎角話題になるけれど、ここまでバリバリ現役感があるのは、かつてはアイドル的人気を誇ったロビン・ザンダーの変幻自在のパワー・ヴォイスが衰え知らずだから。今年69歳でココまでギンギンにロックできるシンガーは、そうそういないでしょ

冷静にいえば、オープナー<Here Comes The Summer>は18年にシングルでリリース済みだったし、今回話題になっているジョン・レノンのカヴァー<Gimme Some Truth>も、19年のレコード・ストア・デイに用意されたもの。その後、往年の未発表ライヴ音源を蔵出ししたり、ニルソンやデヴィッド・ボウイそれぞれのトリビュート企画に参加したが、そのあたりのカヴァー曲は収録ナシ。きっとそれだけ創作意欲が高まっているのだろう。何ともエネルギッシュなアラ古希バンドではある。AOR系ファンには、ちょいとジェフ・リンっぽい作りのバラード<So It Goes>がオススメか。

ちょうどリリースのタイミングで、トム・ピーターソン(b)が1ヶ月前に心臓手術を受けていたことが明らかにされて驚いたが、椅子に座っていたとはいえ、発売日前日にはTV出演してプレイしていたそうだから、まぁ大丈夫なのだろう。ツアー開始が近いらしいが、このコロナ禍、そちらの方が心配だ。

…にしても、これもUSは BMG Rights Management 配給で、日本発売予定ナシ。あぁ、なんて嘆かわしいコトよ…