eiko shuri

カナザワ監修のディスクガイド『Light Mellow 和モノ Special』掲載、朱里エイコの78年モノ『NICE TO BE SINGING』が、タワーレコード限定で初CD化実現。この解説を書いているT-Grooveと和モノ・ディスコのリイシューについて話したところに始まり、ある筋へ軽く繋いだところ、その一部がこうして具体化し、シッカリCDとして復刻された。近年、レア・グルーヴやサブカル的見地から、しばたはつみや弘田三枝子らの再評価がジンワリと進んでいるが、朱里エイコもその一環。でもその2人に比べると、ちょいと周回遅れの感じは否めないので、コレがキッカケになれば、と願っている。

朱里エイコは、1963年に15歳で本名:田辺エイ子(栄子)でデビュー。16歳で渡米して本場ショービズ界で下積み経験を重ね、日米を行き来しながら活動していた。67年から朱里エイコを名乗り、72年<北国行きで>がようやくヒット。翌年も<ジェット最終便>が当たり、2年連続でNK紅白歌合戦に出場している。ただ、米国ではリトル・ダイナマイトというニックネームで歌唱力の高さを評価されたのに、日本では歌謡曲/流行歌シンガーと見下され…。交通事故に遭う不運も重なって、情緒不安定な時期を送ったこともある。それでも米国では相変わらずの人気ぶり。70年代後半になると、半年に及ぶ全米ワンマン・ツアーを行なったり、日本人女性として初めてカーネギー・ホールで公演し(人気コメディアン:レイカルド・デュオとのジョイント・リサイタル)、超満員のオーディエンスを集めている。タワー・オブ・パワーに共演を申し込まれてレコーディング、ポール・アンカから曲をプレゼントされたのもこの頃。

今回リイシューされる『NICE TO BE SINGING』は、そのポール・アンカやフランク・シナトラ、ダイアナ・ロス、バーブラ・ストライサンドなどを手掛けた大物プロデューサー:ドン・コスタの制作による、ハリウッド録音モノ。全編英語曲で、アンカ作品のカヴァーを4曲取り上げている。そのうち<Slow Down>は、アンカの77年作『THE MUSIC MAN』に収録されていたナイスなシティ・ソウルのカヴァー。原曲はTOTO/エアプレイ人脈総動員でチャーリー・カレロがプロデュース/アレンジだったが、フルート舞い立つメロウ・ディスコティークなこの朱里エイコ・ヴァージョンも決して負けていない。

また<Ready Or Not>は、ヘレン・レディが全米73位に仕立てたポップ・ミディアム。デボラ・ワシントンやジョニー・マティス&デニース・ウィリアムス、アンバーらも歌っている。<Don't Pull Out On Me> <Burnin' All Over With Love> <Let's Get Crazy Together>の作編曲、コスタが書いた<I Get Off On You>の編曲を手掛けたのは、L.A.で活躍していたチリ人ミュージシャンのエリック・ブリング。アース・ウインド&ファイアーを筆頭にドナ・サマー、テンプテーションズ、シカゴ、ピーター・セテラ、クリストファー・クロス、ケニー・ロギンス、ピーター・アレン、アル・ジャロウ、フィニス・ヘンダーソンといったAOR〜ブラック・コンテンポラリー周辺ワークスの多い人だ。が、それは、デヴィッド・フォスターやマイケル・オマーティアン、アル・マッケイらのアシスタント的に働いていたから。日本人アーティストのL.A.レコーディングにもよく絡み、ピンク・レディ、松居カズ、河合奈保子、岩崎宏美、広瀬かおるなどのアルバムにも名前がある。その皮切りがこのアルバムだった。

…とはいえ、ある世代に一番馴染みがありそうなのは、クルマのCMソングとして制作され、アルバム冒頭に置かれた<Samurai Nippon>だろう。作編曲はピーター・ストーンとなっているが、実はこれ、大野雄二の変名とか。録音もおそらく日本と思われる。先行シングルという触れ込みで、当時のカップリングには日本語ヴァージョンをチョイス。今回はボーナス・トラックとして、新たに発掘された英語版インストと日本版インスト(コーラスが異なる)と共に追加収録されている。

まぁ、78年のアルバムだから、アレンジの洗練はまだそれなり。参加ミュージシャンも、マーティ・ウォルシュ(g)以外、馴染みがない。ドン・コスタにポール・アンカってコトでMOR系の楽曲が多めだが、同じ78年にL.A.録音されたTAN TAN(大空はるみ)『TRYIN' TO GET TO YOU』辺りに比べると、イケイケなディスコ・ソウルになっていて楽しめる。ちょっとハスッパな歌声とサウンドの相性も良好だ。

でもメンタル面が弱かった彼女は、80年代に入って病気がちになり、トラブル頻発。2004年に虚血性心不全により56歳で急逝してしまった。まさかコレが彼女の、キャリア最後を飾るアルバムになってしまうとは…。そんな残念な思いを隠しつつ、ダンサブルに盛り上がれる一枚です。

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