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優れたAORトリビュート・バンドの多くがヨーロッパから登場している昨今。
その真打ちとも言えるプロジェクトが、かつての本場アメリカから登場した。
プロジェクト名は、
ペイジス~Mr.ミスターのリチャード・ペイジとTOTOのヒット曲から。
その両者+エアプレイのカヴァーにもトライしている。
でもそれ以上に素晴らしいのが、オリジナル楽曲のクオリティ。
凡百のトリビュート・バンドを突き放す、その完成度の高さに触れよ。


…というワケで、最近めっきりヨーロッパ勢に押され気味のUS AORシーンから現れたのが、このPage 99。でもこのユニットは、ニュー・カマーではあるが、メンバーが若いワケではない。中心人物、というより、Page 99そのものであるジョン・H・ニクソンは、既に50歳代。7and5というチル・アウト〜エレクトリック・ニュー・エイジ系プロジェクトで9枚、ニュー・ウェイヴ寄りのMr. Radioで3枚のアルバムを出しているキャリア充分のミュージシャンだ。Page 99が高いサウンド・クオリティを持っているのは、やはりそれだけスタジオ経験を積み、それを作品化してきたから。ぽっと出の新人や宅録マニアがおいそれと作れるサウンドではないのだ。

少年時代はドラマーを目指し、家の地下室でボストンやジャーニー、カンサス、スティーヴ・ミラー・バンドなど、お気に入りの曲に合わせて練習していた。当時もっとも影響を受けたのが、ABC『THE LEXICON OF LOVE(ルック・オブ・ラヴ)』(82年)と『TOTO IV(聖なる剣)』(82年)。ABCのアルバムを手掛けていたトレヴァー・ホーンで “プロデューサーとは何か”を知り、TOTOを聴いて“これこそ自分が作りたい音楽” と思うようになった。そしてジェフ・ポーカロのようなドラマーを目指し、バークリーへ。ところがそこでドラム・キットを盗まれ、それを機にピアノに転向。その後作曲に目覚めて、プロデューサーになる道を選んでいる。その頃愛聴していたのは、プリンスやイエス、リック・スプリングフィールドなどで、ハイファイかつモダンなポップ・ロックを好んでいた。

バークリー卒業後は、地元デトロイトへ戻って映画やTV、CMの作曲/プロデュースで活動。01年にスタートしたプロジェクト:Mr.Radioでは、70年代アート・ロックや80年代ニュー・ウェイブ/シンセ・ポップにフォーカスしている。7and5は05年のスタート。アンビエントかつ瞑想的な電子音楽ながら、何処かヒューマンでポップなメロディ構造で注目された。

面白いのは、ニュー・エイジをやっていたジョンが、AORユニットを立ち上げたキッカケ。実はスウェーデンのステイト・カウズを聴いて、この手の70〜80年代スタイルが、まだ現代のオーディエンスに対して有効であることを教られた、というのだ。「彼らを聴いていなかったら、Page 99は生まれてなかったかも…」

メイン楽器は、ほとんどがジョンのマルチ・プレイ。しかし資料には “24トラック・テープのように録音した” とあり、数人のギタリスト/ベーシストが参加している。訊けばループを使ったり、PC上でコピー&ペーストしたのではなく、曲アタマから最後まで実際に演奏し、それをレコーディングしたそう。そして使用楽器にもこだわり、当時使われていたヴィンテージな楽器だけを厳選している。ヴァーチャル・ソフトやエミュレーションの設定も、当時の方法、70/80年代と同じサウンドが得られるように細心の注意を払っているそう。そしてヴォーカルには、ジョン自身を含め持ち味の違う3人のシンガーを起用した。

音がネットに上がるなり、真っ先に話題をさらったのは、エアプレイ<Nothing You Can Do About It>、ペイジス<Who’s Right Who’s Wrong>、TOTO<Lea>をカヴァー3曲である。イヤ、独自の咀嚼を加えてないから、カヴァーというよりコピーと言った方が正確か。
「でもレイヤリングやソロ、ヴォーカル・パートなどの繊細な部分で、独自のアレンジを施したんだ。彼らに敬意を示し、僕たちがどのような影響を受けたかを紹介することを選んだのさ」

とはいえ個人的には、このカヴァー曲よりも、彼らのオリジナル楽曲に感心させられている。若いバンドでは、ステイト・カウズと共に、ヤング・ガン・シルヴァー・フォックスにも注目しているとか。日本やヨーロッパでの人気が先行し、 USではまだ知名度が低いらしいが、その目の付け所はサスガ。ジョン自身がヴァイナル・コレクターなので、日本のAOR市場の熱の高さもシッカリ理解し、「後期TOTOのように、USリリースのなかった作品が日本でビッグに扱われている例がたくさんあることも知っている」と言う。だからこの日本盤リリースはとても名誉なこと、だとも。日本盤はボーナス・トラックが1曲追加されている。

とにかく、凡百のAOR系コピー・バンド/トリビュート・バンドとは、格段のクオリティの差を誇る PAGE 99。そのサウンドは、往年のAORファンの耳にとても優しく響く。