vinegar joe

2週間前にリチャード(ディッキー)・ベッツを紹介したユニバーサル・ミュージックの廉価シリーズ【ロック黄金時代の隠れた名盤 〈1965-1975編〉】から。ジャンルを超越した80枚復刻のラインナップで、いろいろ紹介したいのがあるけど、今月はガイド本執筆に加え、ライナーとか音専誌の仕事がテンコ盛りで、ブログに時間が掛けられない。なので、ある程度 中身が分かっているタマを。ヴィネガー・ジョーは輸入CDで全3作を揃えてあるので、今回は廉価および日本初CD化ゆえの買い直し。

このヴィネガー・ジョーは、ロバート・パーマー、エルキー・ブルックスという英国きっての実力派ブルー・アイド・ソウル・シンガーがツー・トップを務めたファンキー・ロック・バンド。今回リイシューされたのは、71年の1st アルバム。このあと『ROCK 'N ROLL GYPSIES』(72年)、『SIX STAR GENERAL』(73年)と2作品を続け、ロバート、エルキーがそれぞれソロ活動に入っていく。そういう意味で、英国ロック史に於ける隠れた好グループと言うか、2人の名シンガーのプレ黄金期の作と言えそう。

元々は、アトコにアルバムを残す DADA という大所帯バンドで歌っていたエルキーと、彼女の当時の夫でギタリストのピーター・ケイジが、そこでやはりツイン・ヴォーカルの相方だったポール・コーダと訣別。後釜にアラン・ボウン・セットで歌っていたロバートを迎え入れると同時に、グループを再構成したのがヴィネガー・ジョーの始まりだ。メンバーはロバート、エルキー、ピーター・ケイジに、マンフレッド・マンやグラハム・ボンドとプレイしていたスティーヴ・ヨーク( b)、ジョディ・グラインドを解散させて間もないティム・ヒンクリー(kyd)、ピート・ブラウンのビブロクト!やバタード・オーナメンツのロブ・テイト(ds)という6人。更にアディショナルで、ハミングバードの初代ドラマー:コンラッド・イシドア、アヴェレイジ・ホワイト・バンドのホーン隊であるロジャー・ボール&マルコム・ダンカン他がクレジットされている。

ロバートの個性か、DADAよりもソウル〜R&B色が強くなり、結果的に良質なブリティッシュ・スワンプの出来上がり。ストーンズやジョー・コッカー、ハンブル・パイ、それにUSから渡ってきたデラニー&ボニーとか、その辺と相通じるサウンドに。もちろん、ポール・ロジャースやフランキー・ミラー、ジェス・ローデンらに比較されるようになるロバートも、ほぼヴォーカル・スタイルを完成させていて。半分近くの曲も書いており、バンドへの貢献度は高い。でも、よりインパクトがあるのは、英国版ジャニス・ジョプリンとも呼ばれたエルキーの方なのだ。後にマライア・キャリーで有名になるホイッスル・ヴォイスと呼ばれる唱法を、この段階で実践していたのだから、そりゃあ驚く。でも相当な酒豪だったらしいエルキーさん、その歌声はどんどんハスキーになり、味わいで勝負するシンガーへと変貌していくのだけれど(とはいえ今も現役!)。

このツー・トップの存在から、英国版アイク&ティナ・ターナーと謳われることも少なくなかったヴィネガー・ジョー。アルバム・クレジットにも、ロバートとエルキー、ピートのコーラスをヴィネグレッツと記載していて、レイ・チャールズやアイク&ティナへの憧憬を隠そうとしていない。一方で、ロバートが書いた<Never Met A Dog>が、T-REXの<Get In On>にソックリでビックリ。あれ〜、ロバートがパワー・ステーションを組む時に、最初にリメイクしたのが、この<Get In On>。でもあの時ロバートは、「こんな低俗な曲(歌詞が)は歌いたくない」とゴネたはず。でも結局は周囲に促され、「パロディとして受け入れた」のだが、実際はどうだったんでしょ もしかしてロバートのファンだったデュラン・デュラン勢の確信犯的提案だったのかなー?