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コロナの影響で6月と7月に分散開催となったRecord Store Day 2021。例年は気になるアイテムがあっても割と悠然と構えて、通販スタート後にネット購入していたが、今年は勢い余ってリアル・ショップへ。目的は上掲、スティーリー・ダンが活動再開後にリリースした2枚のスタジオ・アルバム。共にアナログは初めてじゃないけど(First Time on Vinylというキャッチはウソ)、ヨーロッパで発売直後に限定流通しただけなので、近年はトンでもないプレミア価格に。だから、まさしくファン待望のアナログ再発だったのだ。

体裁としては、00年の『TWO AGAINST NATURE』が、ドナルド・フェイゲン『SUNKEN CONDOS』と同じ2枚組の変則3面プレス。03年の『EVERYTHING MUST GO』は通常のA/B面シングル・アルバム。要は収録時間の違いだろう。おかげでアルバム2作で1万円超え。エラくコスパが悪いのは今ドキのアナログ蒐集では珍しくないが、速攻で売り切れてプレミアがつくのは必至なので、ココは躊躇せず。

オーディオ的に楽しみにしていたのは『TWO AGAINST NATURE』。プロツールスを使ったデジタル・フォーマットのレコーディングだったので、CDではカチンカチンのサウンドになっていた。それがアナログでどう変化したか。『EVERYTHING MUST GO』はその反省もあってか、ほぼ固定化したメンバーでアナログ・レコーディングし、それを後からデジタルのトランスファー。だからCDでも落ち着いた音になっていて、自ずとヴァイナルとの相性は良いと踏んでいた。

実際、仕事部屋で爆音再生したところ、おおよそ予想通りの感想に。『TWO AGAINST NATURE』にはマイケル・ホワイトやリッキー・ロウソンなど名だたる名ドラマーが参加しているが、如何にもデジタル対応のスネアの音で、チューニング自体があまり好きになれない。それでも耳に痛いほどだったハイ・エンドは角が取れ、多少なりとも優しい音になった。ただウォルター・ベッカーのベースの音は、彼の好みなのだろうか、終始サスティン成分の少ないボソボソ モコモコしたトーンで、低音域の分離効率が今イチ。これは再生機やスピーカーの環境を選ぶなぁ。フェイゲンがソロで起用するフレディ・ワシントンだと、ほとんど気にならないんだけど…。古いながらも中級レヴェルのオーディオを入れてる我が家でも、ちょっと物足りなさを感じてしまった。

もちろん作品的には、既にお馴染みの2作品。全盛期の作品に比べると、楽曲それぞれのインパクトが薄いのは否めないが、どこをどう斬ってもスティーリー・ダン以外の何者でもないのはサスガである。『THE ROYAL SCAM』『AJA』『GAUCHO』あたりでは参加ミュージシャン個々の技量に頼った感もあったが、世代交代が進んだ再結成後のサウンドは、ミュージシャンの匿名性が高く、ユニットとしてのスティーリー・ダンを前面に打ち出している感があった。

それでも、久々にジックリ対峙するように聴いていると、チョッとした発見が。それは『TWO AGAINST NATURE』のホーン・アレンジ。曲によってフェイゲン自身と、スティーリー・ダン作品初参加となるセクション・リーダー:マイケル・レオンハート(tr)が編曲を分け合うが、フェイゲンの担当曲は、当然のこと『AJA』『GAUCHO』を髣髴させる。それに対してレオンハートのアレンジは、10年代のジャズ・シーンで急浮上してくるラージ・アンサンブルの手法に、どこか近しいと感じた。そう、デヴィッド・ボウイの遺作となった『★(Blackstar)』(16年)に於けるマリア・シュナイダー一派のそれと、何処かで交差するような…。

彼女とレオンハートに交流があったのかどうかは定かではないが、90年代から自身のオーケストラを率い、ニューヨークを拠点に活動していた女性だから、ひと世代若いレオンハートには当然意識があっただろう。何処かで指摘されてた記憶がないので確かなコトは言えないが、自分的には久々に聴き直したことで見えてくるモノがあって、いろいろ妄想が広がってしまった。サブスクで聴き流していたら、こういう発見や発想はないワケで、そうした音楽との関わりこそが、これから重要になってくるのだと思う。

サブスクで楽しんで、時が過ぎればオシマイか。フィジカルで手に取って、アートワークや創作背景まで含む作品力を総合的に楽しむか。聴き手のみならず、発信する側のスタンスが問われる時代でもあるのだな。