michael dinner

70年代ウエストコースト・ロック好きなら きっと気に掛けたことがあるだろうシンガー・ソングライター、マイケル・ディナーの74年1stが、ようやく世界初CD化になった。韓国Big Pinkの制作による、日本盤国内仕様。デンヴァー出身で、初期ジェイムス・テイラーのような佇まいを持つ人なので、プレAOR的に考える音楽ファンも少なくない。実際76年の2nd『TOM THUMB THE DREAMER』には、デヴィッド・フォスターやビル・チャンプリンが参加している。でもディナー自身は基本的にカントリー・ロック寄りの人。74年作と時期が早いこともあるが、JTならばもう同年に『WALKING MAN』を出していたから、ディナーには洗練に向かうクロスオーヴァー感覚が乏しかったと分かる。

このデビュー盤のプロデュースはジョン・ボイラン。バックは当時のリンダ・ロンシュタットを支えたマイケル・ボーデン(b)、ミッキー・マッギー(ds)、ボブ・ウォーフォード(g)、エド・ブラック(steel g)らがベーシックな陣容で、そこにリンダ自身やアンドリュー・ゴールドを始め、デヴィッド・リンドレー、ラス・カンケル、ラリー・ネクテル、ゲイリー・マラバーなどが手を貸している。イーグルスからはドン・フェルダー、そしてニック・デカロもアコーディオンで1曲。ジャケ写は言わずと知れたノーマン・シーフだ。

当然ボイランが同時期に手掛けたリンダの『DON'T CRY NOW』や、人脈の近いジャクソン・ブラウン『FOR EVERYMAN』に共通する顔ぶれが多々。所属レーベルは CCR(クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル)でロック・ファンにも馴染みがあるファンタジーだが、このレーベルはゼロ年代にコンコード傘下に入った関係か、ジャズ方面に比べロックやソウル方面のCD化が著しく遅れている。サウンド的にアサイラムのカラーに近い作品なので、もしレーベルが違っていたら、早々にCD化されたのかも。

もっとも前述のように、ディナー自身、あまり音楽的野心はなかった様子。70年代後半の新しい西海岸潮流、プレAOR志向には乗らぬまま、音楽キャリアを閉じてしまった。それゆえバックの顔ぶれに関わらず、自分はこの人をカントリー系シンガー・ソングライターとして捉えている。一番耳に残るのも、3人のプレイヤーによるスティール・ギターやフェルダーのスライドだったり。

ちなみに、現時点でのアナウンスはないが、2nd『TOM THUMB THE DREAMER』のCD化計画もあるようだ。