tedeschi trucks_layla

ジョン・メイヤーの新作と並ぶ、目下のところの愛聴盤、テデスキ・トラックス・バンドのライヴ・アルバム『LAYLA REVESITED』。言うまでもなくエリック・クラプトン(デレク&ザ・ドミノス)の超名盤『LAYLA』の再訪盤だけれど、デレク・トラックスの名前がココから来ていること、彼自身が『LAYLA』でクラプトンと渡り合ったデュエイン・オールマンの再来のようなポジションにいること(オールマン・ブラザーズ・バンドの創設メンバー:ブッチ・トラックスは叔父)、そのデレク自身がクラプトンの07年ツアーに呼ばれて『LAYLA』の主要曲を一緒にプレイしていたこと、等など、このロック史に残る名盤をリヴィジットするのに、彼ほどの適任は他にいない。しかも、数年前に分かったらしいが、『LAYLA』のUSリリース当日が、まさに姐さん女房スーザン・テデスキの誕生日だったと言う。デレク自身、よちよち歩きの頃から親しんでいた作品で、ギターを手にして間もない頃、真っ先にコピーしたのもこのアルバム。『LAYLA』を語ることは「ファミリー・ストーリーを語るようなもの」とは、デレク自身がインタビューで語った言葉だ。

ライヴ・レコーディングされたのは、2019年8月24日、米ヴァージニア州アーリントンで開催されたロッキン・フェスティヴァルの出演時。レギュラー・メンバー12人に加え、一緒にクラプトン・バンドに参加したサウスポーのギタリスト:ドイル・ブラムホールII、フィッシュのトレイ・アナスタシオをゲストに迎え、何と事前アナウンスなしに、『LAYLA』全曲をセットリストに上げたのだ。そのインパクトは絶大で、すぐにニュースが拡散されたし、ブートレグもいろいろ出回った。そのオフィシャル・リリースがコレ。オリジナル『LAYLA』がアナログ2枚組だったのに対し、こちらはCD2枚組、アナログ盤は3枚組。ライヴな上に大編成だから、演奏は当然長尺になっている。でも冗長さは皆無。収録曲は当然お馴染み、曲によってはアドリブ・ソロまで空で口づさめたりするほどだから、まったく退屈などしない。

そもそも本家デレク&ザ・ドミノスは4人編成で、スタジオでもデュエインを含めた5人。それをギター4人、ダブル・ドラムス+3管を含む大所帯でプレイしているワケで。ヴォーカルに至っては、スーザンと3人のレギュラー・シンガーにドイルとトレイが追加されている。だから黙っていても分厚いアンサンブルになるのだが、一見ラフなようで実はシッカリとアレンジされ、ほとんど無駄がない。基本構成はオリジナルに準じていても、インプロヴァイズするところはタップリ尺を取って自由に展開している。

それはギター・パートも同じだ。リード・パートはスーザンを除いた3人で弾き分けているようだけれど、スライドはほぼデレクというほかは、誰が何を弾いているのか、判然としない。もちろんある程度は区別できるけど、そうやって耳をそばだてて想像を張り巡らせながら聴くのが楽しいのだ。

それなのに、「ココにはクラプトンはおろか、デュエインもボビー・ホイットロックもいない。オリジナル版に比べるべくもない」といった批判もチラホラ。そりゃ、そうだ。でももしそれを求めるなら、死ぬまでオリジナルだけ聴いてろ!ってハナシで。コレは "Revisit" なのだから、オリジナルをベースにしつつ、そこに近づいたり離れたり、縦に斬ったり横に斬ったり引っ繰り返してみたりというアーティキュレイティングを楽しむのがスジ。それをもっとも血筋の近いデレク一派が演ることで、より一層深い感情移入ができる。倍の長さに伸びて10分越えになった<Keep On Growning>とか<Anyday>とか、もうサイコーで。それなのにオリジナルと比べて云々言うのは、下衆のやるコト。クラプトンが『LAYLA』の完全再現を今やったところで、ココまでのクオリティになりはしない。

唯一、アルバムのクロージング<Torne Tree In The Garden>のみ、デレクとスーザンによるデュオのスタジオ・レコーディング。ライヴ当日は、客出しBGMとしてデレク&ザ・ドミノスの原曲が流されたそうだが、このライヴ盤の作品化に際して、急遽アンプラグドで録られたそう。これで完璧なストーリーになったので、国内盤ボーナス・トラックは余計かも。

ちなみにGuitar Magazin 8月号は、昨日アップしたジョン・メイヤー新作と、この『LAYLA REVISITED』が特集されている。そのデレクのインタビューを読むと、ドイルやトレイが入ってのリハーサルはたった2回だけだったとか。もちろんそれ以前にバンド本体はリハを重ねて準備を整えていたそうだが、彼らもオリジナルをシッカリとマスターしてきて、リハの時は誰がどのパートを弾くか、新たなギター・リックを加えるか、とか、そういうやり取りで済んでしまったと言う。

個人的には、19年に急逝したコフィ・バーブリッジの後任として加入したゲイブ・ディクソン(kyd)にも注目。彼は2010年代から自分の活動を行なっていて、最近デジタル・リリースした新作がエルトン・ジョンとベン・フォールズを足してAORで割ったみたいな感じで、密かに要注目していた。そしたらいつの間にかテデスキ・トラックス・バンドに加入したと知り、ちょいビックリ。叶うことなら、このセットでコロナ禍明けに来日、なんてコトになりませんかね?