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前作『STANDING IN THE BREACH』から約7年ぶりの新作、と書かれた資料を見て、思わず目をパチクリ。来日公演があったり、日本でレコーディングしたライヴ盤『THE ROAD EAST 〜 LIVE IN JAPAN』があったりしたせいか、ホンの3〜4年のインターヴァルだと思っていた。先行シングルでタイトル曲でもある<Downhill From Everywhere / A Little Soon To Say>は、昨年5月のリリース。本来は、その後ジェイムス・テイラーとのジョイント・ツアーを行なって、秋にこのアルバムを出す予定だった。

ところが、その後のコロナ禍。他ならぬジャクソン自身も罹患し、2週間の自己隔離。幸い風邪程度の症状で、後遺症もなく、このアルバムの仕上げに戻ったという。

実のところ、アルバム収録曲のうち、<Downhill From Everywhere>と<A Little Soon To Say>を含む約半数は既発表。自宅スタジオがあるので、新曲ができたり依頼が持ち込まれたら、その都度スタジオ入りして、バンドと共に試行錯誤を重ねながらヘッドアレンジで仕上げていくのが彼のパターンだ。だからこのアルバムは、インターヴァルが空いた約6年間の蓄積でもあるワケ。

もちろん、デビューから半世紀の大ベテランだから、今更大きく作風が変わるワケではない。歌う内容は変わっても、辛辣な社会派メッセージを発している点は同じだし、それをギター中心のシンプルなバンド・アンサンブルで表現するところも変わらない。参加メンバーは、ボブ・グラウブ(b)、マウリシオ・リワーク(ds)、ジェフ・ヤング(kyd)、ヴァル・マッカラム(g)、グレッグ・リーズ(g, pedal steel)、アリシア・ミルス/シャヴォンヌ・スチュワート(cho)という、歴代で最もお気に入りだという現行グループ。一部、ワディ・ワクテル/マーク・ゴールデンバーグ(g)、ラス・カンケル(ds)、デイヴィー・ファラガー(b)といった近い筋も参加している。

ただ作風が変わらないとはいっても、やはり年嵩が増した影響はあるだろう、歌詞は先鋭的でも、演奏自体は適度なテンションのまま、懐の深さで聴かせる感覚。オープナー<Still Looking For Something>は、スタンスこそ往年の<Running On Empty(孤独なランナー)>なのだが、レイドバックしたサウンドに時の流れを感じる。

一方で、シングル・カットされた<My Cleveland Heart>のポップさは、何処となく、映画『初体験リッジモント・ハイ』に使われてジャクソン最大のヒット・シングルになった<Somebody's Baby>(82年/全米7位)に似て。フリートウッド・マックに苦味を加えたような<Minutes To Downtown>、エイズ治療に貢献した医療関係者のドキュメンタリー映画『5B』(19年)に提供したレスリー・メンデルソンとのデュエット<A Human Touch>も、なかなか沁みる。

だがアルバム後半になると、このアルバムならではの新しいフェイズが顔を出してくる。ワールド・ミュージック的というか、アフリカやカリブ、メキシコなど、そうした民族音楽的要素が強くなってくるのだ。ジャクソンの場合のそれは、もちろんハイチの難民支援、メキシコからの移民問題、ブラック・ライヴズ・マター、そして海洋汚染…といった社会問題や政治案件に対するメッセージと直結している。でもそれがダークでヘヴィに聴こえないのは、このムーディなラテン要素が原因かも。

アルバム・タイトル『DOWNHILL FROM EVERYWHERE』とは、現代社会はすべての局面で下り坂に向かっている、というコトを指している。でもジャクソンは絶望しているのではなく、今も一縷の明るい希望を探しているのは、この作品でも明らかだ。弟セヴェリンもニュー・アルバムを出したし、いつまでも沈んでられないヨ、といったところか。

我々も、コロナ禍の東京五輪で必死に前進を続けるアスリートたちに声援を送るだけでなく、秋に訪れるであろうゲーム・チェンジのチャンスを、もう無駄にしないようにしなくては