yamagen_tokyo munch

ステージ上に山のような弦楽器が並ぶから、山弦。佐橋佳幸、小倉博和というギターの匠によるアコースティック・デュオ・ユニットが、17年ぶりに復活した。この山弦、そして彼ら2人にシンガーの平松八千代が加わった歌モノ・ユニット:SOY、両方合わせて2〜3回インタビュー取材したことがあるが、あれからもうそんなに経つのか

山弦としてはデビューから30年目の通算6作目。彼らの場合、フル・アルバムが3枚あって、その間にミニ・アルバム・サイズのカヴァー集:MUNCHシリーズが出ている。この17年ぶりのニュー・アルバム『TOKYO MUNCH』は、『INDIGO MUNCH』『HAWAIIAN MUNCH』に続く、シリーズ3作目。コロナ襲来前の昨年1月に行われた小倉の還暦記念ライヴ『NO GUITAR, NO LIFE』が引き金になってのユニット再開で、実は一度も顔を合わせずに完成させた、完全リモート作品だという。

何より、その事実に驚かされるが、山弦にドップリ付き合ってきた人ならは、さもありなん、って思うかも。彼らの作品はどれも、緻密に創り込まれているようでありながら、一方でそれを阿吽の呼吸で演り切ってしまっている凄みがある。一般的に、難しいことを簡単に演っているように聴かせるのが音楽の醍醐味、と言われるが、彼らの場合は、トコトン難しいとわかっているコトを如何にリラックスして聴かせるか、みたいな感覚。特にMUNCHシリーズは、素材がカヴァー曲なので、その傾向が強く表れる。

今回は選曲がバラエティに富んでいて、キース・ジャレット<Country>、サイモン&ガーファンクル<Mrs Robinson>、スタンダード<Polka Dots And Moonbeams>や<Istanbul>、マドンナ<Crazy For You>が違和感なく。その中に2人のオリジナル曲のセルフ・カヴァーが混ざり、ユニット結成のキッカケとなった桑田佳祐のユニット:Super Chimpanzee(桑田・小林武史・佐橋・小倉ほか)で演った<クリといつまでも>。そしてコロナ禍だからこそのピート・シーガーの反戦歌<Where Have All The Flowers Gone(花はどこへ行った?)>で締めくくる。MUNCH とは、ムシャムシャ喰らう、という意味。そう考えると『TOKYO MUNCH』とは、東京五輪に向けた彼らの思いが込められていたのでは?、なんて深読みかな?

今朝もスマホでこのアルバムを聴きながら、日課になっている近くの自然公園をウォーキングしたけれど、夏の早朝の日差しと緑の木々、池の淵で羽繕いしているカルガモ一家を眺めていたら、コロナ禍であるコトも締め切りも、いっとき、み〜んな忘れてしまえたヨ。