tania maria_ny

今日もめっぽう暑かったので、ブラジル物で返り討ち!? 注目していた方も多いと思うが、ユニバーサル・ミュージックの恒例シリーズ【初CD化&入手困難盤復活!! 】に、『ブラジルが生んだ秘蔵の名盤〈'50s~'00s〉』が登場。7月下旬に100タイトルがCDでリイシューされたのだ。もちろん税込1,100円という廉価なので、自分の手元にないアイテムをごっそりオーダー。目玉は日本初CD化というイヴァン・リンスの1stと2ndで、当然それもゲットした。でもココではまず、個人的待望だったタニア・マリアの85年作『MADE IN NEW YORK』から。

60年代からリオ・デ・ジャネイロで活動していたタニアだが、70年代中盤からはパリを拠点に活動し、ヨーロッパで注目される存在に。更に80年代に入って渡米し、コンコード・ピカンテと契約。折からのフュージョン・ブームと相まって、82年作『TAURUS』、83年作『COME WITH ME』でその名を広めている。初来日も83年の斑尾ジャズ・フェスティヴァル。後者のタイトル曲<Come With Me>は、今やタニアの代名詞的存在で、クラブ・シーンでも定番曲になっている。

そうした流れを受けて、当時キャピトルが新たに立ち上げたマンハッタン・レコードへ移籍。その第1弾がこの『MADE IN NEW YORK』だ。自分的にも、初めて新作として聴いたタニアのアルバムだったので、思い入れは強い。リイシュー盤のオビには “アメリカ進出第1弾” とあるけれど、『TAURUS』『COME WITH ME』も米録音だったので、コレは正確ではない。ただサンフランシスコのラテン人脈に乗っての作品ではあったから、ニューヨークのジャズ・フュージョン・シーンに飛び込んだという意味に於いては、今作で初めてUS勢とガップリ四つに組んだ印象。特にリズム・セクションのラインアップは、バディ・ウィリアムス/デイヴ・ウェックル(ds)、アンソニー・ジャクソン/トム・バーニー/リンカーン・ゴーインズ(b)、サミー・フィゲロア(perc)と、如何にもニューヨークのトップ・ミュージシャンと渡り合った感がある。

とはいえ、アソシエイト・プロデューサーにエミール・デオダート。ピアノは弾かず、リン・ドラムのプログラムでヘルプしているだけだが、ブラジル音楽だけでなく米ジャズ・シーン、更にクール&ザ・ギャングのプロデュースを通じてコンテンポラリーなポップ・ファンクにも明るい人だから、ある種アドヴァイザー/バランサーとしての役割を担ったと思われる。その結果として、『TAURUS』『COME WITH ME』と比べ、更に濃厚なニューヨーク・ファンク・テイストを取り込んだ、モダンでコンテンポラリーな都市型ラテン・ファンク・フュージョン作になった。もし新レーベルに行かなかったら、GRPあたりでやってそうなサウンドである。

ただひとつ残念なのは、これがリマスターではなく、85年の初回CDマスターを再利用してしまっていること。だから録音レヴェルが低く、音に霞がかっている印象がある。廉価盤で一挙100枚発売というシリーズ企画なので、予算も時間も確保できないことは痛いほど分かるが、35年も前のマスターをそのまま、というのは、2021年の商品としてどうなのか。85年録音で元々の音質は良いのだから、ちゃんと磨けば遥かにシャープで粒立ちの良い音になるのが明白。音楽を愛で、世に広めていく立場の人たちが、こういう所で労力を惜しんじゃイケない。実際、そうするだけの価値が充分ある作品なのだから…

…というワケで、買い直しはしなくてイイから、まだ本作を聴いたことがない、タニアは<Come With Me>しか知らない、という方に強力オススメ。