doug brons 1985 jp

遅咲きながら、今のコンテンポラリー・ゴスペル・シーンで最も勢いある
ブルー・アイド・ソウル・シンガー、ダグ・ブロンズ。
日本デビュー盤からほぼ1年でキッチリ届いた通算3作目は、
迸るソウル・ヴォイスと疾走する80'Sサウンドが張り合う
熱きクロスポイント。  


いやはや、何とも熱いオジサンである。1963年12月、カリフォルニア州サンタローザ生まれ、というから、今年末で58歳。17年のデビュー時点でもう50代半ばだから、普通なら、それ1枚を記念碑的として世に出して、もう満足、なんて気持ちになるところだ。それがこの人は、そこから4年で3枚目のアルバムを出し、まだまだ血気盛ん。
「楽しんでやっているよ。今後もこの道を進んで、シンガーとして、ソングライターとして成長し続けてスキルを磨いていきたいんだ。僕には大きな夢があるけど、まだそこには至っていないからね!」

デイ・ジョブを持つ身だから、ツアーには出ない。その分ホーム・スタジオに籠ってレコーディングに打ち込むのは分かる。でもやはり、楽しんで音楽制作しているのが良いのだろう。大抵は20~30代で突っ走って疲弊し、創作意欲が枯渇していく。若い頃のヒットに頼ってノスタルジア・サーキット周り、というのが常だ。もっとも彼のようなCCMシンガーの場合は、教会回りになるのかもしれないが。

タイトル『AUDIO 1985』は、曲作りのインスピレーションの源がその頃の音楽、アーティストにあるから。
「いろんな音楽が好きだけど、70年代後半から80年代半ばに人気があったものが特に好きなんだ。その時代には素晴らしいサウンドがたくさんあって、詳細に方向性を決め込むことは難しかった。それでレコーディングを始める段階になって、85年前後のポップ〜ロック・サイドをフォーカスしようと決めたんだ」
「好きなアーティストは、マイケル・マクドナルド、TOTO、アンブロージア、シカゴ、ロビー・デューク、ボズ・スキャッグス、アル・ジャロウ、ドゥービー・ブラザーズ、クリストファー・クロス、マイケル・オマーティアン、マイケル・センベロ、ジャーニー、セルジオ・メンデスなどだね。キーボード奏者としてこうしたバンド/アーティストを研究し、彼らの曲を理解するのに時間を費やしていたんだ。おそらくマイケル・マクドナルドは、自分の歌と演奏のスタイルに最も影響を与えた人だよ」

デビュー作『SOULSCRIPTED』(日本では未発売)や前作『TIMEPIECE』にはビル・チャンプリンが参加したが、今作では名の通ったゲストはナシ。でも音を聴くと、そんなの必要ない、と思わせてくれる。ベクトル的にも、ブルー・アイド・ソウル色が強かった前2作より、押しが強い80年代のアリーナ・ロック・スタイル。ドラムはリバーブを効かせてラウドに、シンセサイザーは分厚くシンフォニックになった。とりわけプリセットと思しきシンセのサウンド・メイクが効果を上げている。
「<Tell Me Everything>では、TOTOがあの時期によく使っていたサウンドを追求している。アコースティック・ピアノ、DX-7のローズ、そしてオーバーハイムのブラス・パッチを単独で使ったり、重ねて使ったりしたんだ。TOTOの大ファンなので、彼らのヴァイブを再現するのは楽しかったね!」 

あらあら、コレは、ジョン・メイヤーの新曲<Last Train Home>に当たらずとも遠からず。アートワークもオリジナルのドット文字デザインから、日本独自のカセットデッキ仕様になった。欧州盤はオリジナル・タイトル『AUDIO 1985』をオールドスクールだと少しネガティヴに捉えたようで、『PULL』と改題したが、日本はむしろ「もっと行ったれ〜」とこのジャケに。それを見たダグも、「まさに1985そのもの」と大喜びしたという。

プロデュースは前2作を手掛けたトム・ヘンビー、今回初参加となるジョージア在住の盲目のミュージシャン:マーク・ダウディとダグの共同制作曲が、およそ半分づつ。ダウディとは今作の制作を始めるまで深い付き合いはなかったそうだが、いろいろコミュニケーションを図るうちに、互いのアイディアや方向性がとても近いと感じるようになった。
「まるで同じ生地から作られたみたいだった」とダグ。

最初はUSだけでなく、このアルバムが日本、そしてヨーロッパでもリリースされることにちょっと戸惑いもあったようだが、今はすっかり興奮気味。
「こんな大きな展開になるなんてビックリだよ。インディペンデント・アーティストにとって最も大変なことは、多くの人々にリーチすることなんだ。だからこれは自分にとって大きな助けになる。心から感謝しているよ!」

ベテランの音楽を反芻して楽しむことも良いけれど、もう半ばリタイアしているミュージシャンに対しては、所詮多くは期待できない。年齢やキャリアに関係なく、バリバリとイイ音楽を創っている人こそ、全身全霊で応援していきたいモノである。