lindsey buckingham

結局のところ、女帝スティーヴィー・ニックスに拒まれて、フリートウッド・マックに復帰できずいるリンジー・バッキンガム。クリスティン・マクヴィーとのデュオ・アルバムから4年ぶり、純然たるソロ作となると10年ぶりの最新作がリリースされた。強面のアートワークには一瞬たじろぐけど、敢えて今『LINDSEY BUCKINGHAM』とセルフ・タイトルを付けたあたり、それだけ自信がある作品なのだろう。

セルフ・タイトルにはもうひとつ意味があって、演奏、プロデュース、録音、ミックスまで、完全にリンジーがひとり多重録音で作り上げている。作曲も、60年代のフォーク・グループ:ポゾ・セコ・シンガーズのヒット曲でフォーク・クラシック化している<Time>以外は、全曲オリジナルだ。もちろんコロナ下でのホーム・レコーディングという事情はあるだろうけど、これまでも若干のゲストやシンプルなリズムを入れるだけで、ほとんど自分の独創的なギター・プレイとヴォーカルだけでアルバムを作ってきた人である。スティーヴィーに毛嫌いされ、コロナに見舞われたって、今更慌てるコトなどない。むしろ、「上等じゃん 全部ひとりでやったるわい」と、開き直るキッカケになったのではないか。

で、ズバリこれは会心の作。リンジーのソロ作では最高傑作といってイイし、個人的にはマックの『TUSK』のリンジー楽曲だけを1枚にまとめたような、そんな感覚。“甘美な狂気” とでも言うかな。エキセントリックで偏執狂的な部分と、甘くノスタルジックな面が綯い交ぜになった、リンジーだけの世界観が完成している。<I Don't Mnd>なんて、まるでソロでの初ヒット<Trouble>のよう。2ndシングルに切られた<On The Wrong Side>は、マックの<Go Your Own Way>を髣髴させる。

バッキンガム=マクヴィーの共演作が、実質的にフリートウッド・マック・マイナス・ワン(ミック・フリートウッドもジョン・マクヴィーも参加している)だったように、リンジーを拒絶しているのは、かつて恋仲だったスティーヴィーだけ。音楽的には絶対に彼が欲しいんだけど、興行的にスティーヴィーは欠かせない、と言うのが現在のマックの状況だろう。リンジーの穴を埋めたのが元ハートブレイカーズのマイク・キャンベルというのも、詰まるところスティーヴィー人脈。確かにアブナイところのあるリンジーだけど、やっぱりマックが全盛期を築くには、彼の才気が必要不可欠だったと強く認識させられる。

惜しむらくは、このうちの何曲かは、きっとマックで演ることを想定して書かれたのではないか、ということ。そことジャケだけが チョッピリ残念ではあるな…。