august red

新旧AORファンを興奮の坩堝に陥れたPage 99を率いるジョン・ニクソンの
兄トムのユニットが、EP盤で日本デビュー。Page 99よりもメロウでマリン度が高く、
ヨット・ロック世代にジャスト・フィット。ビル・ラバウンティの名曲
「This Night Won't Last Forever (涙は今夜だけ)」のカヴァーも超絶美味。
何度も何度もリピートしてドップリと浸りたい、極上ヘヴンリーAOR ― 金澤寿和


Page99の登場には、現行AORに気を配っているファンなら誰もが驚いたコトだろう。だがよもや、そこにスピン・オフ的プロジェクトまで付いてくるとは、まじビックリ

兄貴のプロジェクトだから、CDを出す順番が逆になっただけで、実は Page99よりオーガスト・レッドの方が以前からあったのではないかと思っていたら、どうもそれは間違いのようで。元々トム・ニクソンはジェス・グルーというオルタナ系5人組バンドを組んでいて、93年に自主製作CDでデビュー。チープ・トリックやロマンティックス、キッド・ロックなどのオープニング・アクトを務めたそうだが、2枚目のアルバムを出した後、活動を停止した。

オーガスト・レッドがスタートしたキッカケは、CDの1曲目に収録された<Faded Memory Song>。この曲ができた時、トムは弟ジョンに「Page99で使わないか?」と持ち掛けたらしい。するとジョンの返事は、「使ってもイイけど、どうせレコーディングするなら、自分でやってみたら?」と。

この時、オーガスト・レッドが誕生した。歌われているのは、コロナのロックダウンで失ったり、愛する人と引き離されてしまった、そうした体験へのリアクション。つまり、まだ昨年4月ごろの話なのだ。

もちろん、兄弟揃ってAOR好き。でも指向は少し違っていて、Page 99がヨーロッパで受けそうなメロディック・ロック寄りなのに対し、オーガスト・レッドは大らかでヨット・ロックに近く、何より楽曲のメロディと詞を重視している。ジョンはバークリーで音楽教育と技術的訓練を受けているので、トムが書いた曲を音楽的に熟成させ、具体的なカタチにするのが役割。だからトラック制作に関して言えば、オーガスト・レッドは実質的な共同プロジェクトと言ってよい。う〜ん、何だかスティーリー・ダンとフェイゲン/ベッカーのソロ活動のようであるな。ちなみにリード・ヴォーカルのトム・ベニエヴィチは、ジェス・グルーの元シンガー。

EPなので5曲と短いが、誰もが気になるのが、ビル・ラバウンティ<This Night Won't Last Forever(涙は今夜だけ)>のカヴァーだろう。トムはビル・ラバウンティに多大な影響を受けていて、82年作『BILL LaBOUNTY』こそ、このジャンルの頂点だと考えている。でもそのアルバムからはカヴァーも多く、比較的知られているので、敢えてコチラを選んだらしい。アァ、よ〜く分かってらっしゃる…

そう言えば<This Night Won't Last Forever>は、つい最近、かのボブ・ディランも80年代初頭にレパートリーにしようとトライしていたことが明らかになった。少し前に蔵出しされたオフィシャル・ブートレッグ・シリーズ第16集『SPRINGTINE IN NEWYORK 1980-1985』のデラックス・エディション5枚組に、同曲のリハーサル・テイクが収録されているのだ。正式レコーディングではないので、演奏自体はリラックスした感じ。マニアな方は聴き比べては如何だろう。

トムは日本のシティ・ポップにも興味を持っているそう。まったく目が離せない兄弟たちであるコトよ…