respect

観てきました、アレサ・フランクリンの伝記映画『RESPECT』。彼女の波乱万丈の人生については概ね知っていたし、5年前に発刊されたデヴィッド・リッツ著『アレサ・フランクリン〜リスペクト』も読んでいる(実は読了してはいないんだけど…)ので、ストーリー的な驚きはほとんどなく。それでも、2時間半という長めの尺を一気に見せるプロットの巧みさには、唸ることしきり。あ、そこ端折っちゃうんかいとか、絶頂期とも言えるアトランティック前期でキレイに結んでしまうあたり、ツッコミどころはあるんだけど、人生ドラマ、天性のシンガーの成功物語として面白いのはその辺まで。後味の良い映画でありました。

ストーリーを知っている者としての一番の見所は、やはりジェニファー・ハドソンの成りきりぶり。生前のアレサから直々にオファーを受けていた、というだけあって、迫真の演技である。もちろんヴォーカル・パフォーマンスも申し分ナシ。歌声自体はアレサほどの野太さはないんだれど、幼少期からシカゴの教会で歌っていたというキャリアに加え、アメリカン・アイドル・シーズン3のファイナリストで、ミュージカル映画『DREAMGIRLS』では初映画出演でアカデミー賞助演女優賞を獲得。しかしシンガーとしてはグラミーを受賞するも、それほど強烈なイメージがついていない点も、アレサを演じる上では都合が良かったかもしれない。例えば、アレサに強烈なアドヴァイスを送るダイナ・ワシントン役を演じたメアリー・J・ブライジあたりがアレサ役だったら…? まだ若い設定なのに、アクが強くなりすぎて違和感があったかもしれない。

音楽面の見所は、マッスル・ショールズのミュージシャンと通じ合ったフェイム・スタジオでの< I Never LovedA Man(貴方だけを愛して)>のセッション(DV夫:テッド・ホワイトがぶち壊す)とか、<Respect>の名アレンジが生まれた深夜の3姉妹ピアノ・セッションとか、いろいろ。特に後者はオーティス・レディングの原曲をはるかに超越して、人種差別や公民権運動といった社会的背景から、DV夫への当て付けまで、様々な意味を含んだヒットになった。もちろんゴスペル・アルバムのハイライト<Amazing Grace>然り。

エンドロールを眺めていて驚いたのは、エグゼクティヴ・プロデューサーがスティーヴン・ブレイだったこと。元ブラックファースト・クラブで、初期マドンナのブレーンとして有名な人。少し前にミュージカル『カラー・パープル』のシアター・アルバムでグラミー賞を受けていたとは知らなんだ。

それにしても、このキンキラなヴィジュアルな何なんでしょ? ちゃんとアーティストの本質を伝えているUS版に比べ、日本のエンターテイメント業界の薄っぺらさと虚飾性が、そのまま表れてしまっている。そういう化けの皮なんてすぐに剥がれる時代だと思うけど…