rod stewart 021

ロッド・スチュワートのニュー・アルバム『THE TEARS OD HERCULES(ヘラクレスの涙)』がいよいよ発売。いや〜、新しい年になればすぐに77歳になるというのに、ロッド、全然元気ですわ。ピュアーなオリジナル新作としては、『BLOOD RED ROSES』から3年ぶり。その翌年に出た『YOU'RE IN MY HEART(ロッド・スチュワート・ウィズ・ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団)』は、ポール・サイモンが持っていた全英チャート首位獲得の年長記録を塗り替えたそう。だけど新曲は実のところ1曲のみ。その他はロッドのヴォーカルと演奏の根幹部分はそのままに、大々的にオーケストラを追加レコーディングしたような、言わばリミックス・アルバムであった。

それを乱暴に言ってしまえば、02年にスタートして大成功した "The Great American Songbook"シリーズの逆パターン。しかも、自分で歌い直したならまだしも、オーケストラ・アレンジのリミックス・ベストに止まってしまったところに一抹の寂しさを感じたし、賛否が割れた原因もそこにあったと思っている。

そもそも自分は、 "The Great American Songbook"シリーズ自体を、あまり快く思ってはいなかった。クライヴ・デイヴィスが新たに興したJ Records に移籍して、クライヴの楽曲至上主義とロッドの成金趣味が合体。売れて当たり前の作品が当然の如く売れただけで、そこに面白味は感じなかった。かと言って、フェイセズ時代がサイコー、と言うつもりもない。自分にとって一番好きなロッドは、70年代後半と80年代の後半。自分に言わせりゃ、リッチなサウンドであっても、あまりエンターテイメントに走り過ぎていない、過度にゴージャスになっていない時期に当たる。

だから "The Great American Songbook"シリーズが大ヒットを連発し、絶頂期を更新していく中で、ロック・スタンダードやソウル・クラシックに挑戦する姿は好感を持って見ていたし、92年にレコーディングしたもののお蔵入りしたトレヴァー・ホーンのプロデュース作『ONCE IN A BLUE MOON』が陽の目を見た時は快哉を叫んだ。そして2013年作『TIME』から再開したオリジナル・アルバム攻勢に、これぞロッド!と喜んだ。ある意味、ロッドなりの老いとの戦いか、とは思いつつ…。

なので余計に、自分で歌わない『YOU'RE IN MY HEART』に疑問を感じた。それとも彼の中では、リメイク企画なら、手術明けの喉でワザワザ歌わんでも…、という目線だろうか。

何れにせよ、そのあとのコレだから、正直一抹の不安はあった。実際にCDをスピンすると、冒頭の<One More Time>や<All My Days>は、4ツ打ちビートに、かのコアーズを髣髴させるケルティック・ポップを乗せたモノ。もしかして、ABBAの復活を意識した?なんて、あらぬ妄想を抱いてしまうような…。間に挟まった<Gabriella>も、打ち込みダンス・ポップにヘヴィメタ・ギターのスタイルで… もちろんロッドには、以前からスコットランドのルーツ、トラッド回帰、みたいなところはあるんだけど。

でもそれが、ソウル・クラシックのファンク・ロック・カヴァー<Some Kind Of Wonderful>で一気に持ち直す。76年にグランド・ファンクが全米3位にしてロック・ファンにもお馴染みとなり、ヒューイ・ルイス&ザ・ニュースも取り上げた楽曲。これに続いて一気に畳み掛けてくるのが、マーク・ボラン・トリビュート<Born To Boogie>。ビリビリ痺れるような音のロッキン・ギターがカッコよくて、思わず70年末のロッドのライヴでギターを弾いていたビリー・ピークを思い出した。

でもこのアルバムの真骨頂は、実はスロウ・サイドと呼べそうな後半にある。ホンノリと懐かしさを漂わすミッド・チューン<I Can't Imagine>、かつて<Rhythm Of The Night>(91年・全米5位)を提供してもらったお気に入りのマーク・ジョーダン楽曲をカヴァーしたアルバム・タイトル曲<The Tears Of Hercules>、味わい深いアコースティックなソウル・バラードで徐々にゴスペルに展開していく<Hold On>、ハチロクのロッカ・バラード<Precious Memories>…。このあたりの流れが絶妙なのだ。

全12曲中、<Some Kind Of Wonderful>とマーク・ジョーダンのタイトル曲、ジョニー・キャッシュのケルティック・カヴァーを除く9曲が、ナンとロッド自身のペン。そしてそのうち8曲が、共同プロデューサーでもあるケヴィン・サヴィガーとの共作曲になる。ケヴィンは70年代末からロッドに仕えているkyd奏者で、近作ではプログラミングやエンジニアまで兼ねる活躍ぶり。コロナ禍で制作された今作では、自ずと打ち込み比重も高まって、それだけ貢献の幅が広がっている。今のロッドには、まさしく不可欠の人材だ。

聞くところでは、ロン・ウッドがロッドとケニー・ジョーンズにフェイセズのリユニオンを持ち掛けているとか。2011年には、ロッドの代わりにミック・ハックネル(シンプリー・レッド)を入れた布陣でフジロックに出演したが(ベースはグレン・マトリック)、その後イアン・マクラガンが鬼籍に入ってしまった。ロンはストーンズもあるんだろうけど、もしロッド入りのフェイセズ再編が実現するなら、やっぱり観ておきたいぞっと