julian lennon

洋楽好きの多くは、ディズニー+で配信が始まったビートルズ『GET BACK』の話題で持ちきりのようで。でも自分の場合は、これを機に定額配信を申し込んだところで、その先 何も観ないまま月々の引き落としだけ続いていくのが火を見るより明らかなので、ココは我慢で Blu-ray化を待つことに。そもそも、こうした囲い込み商法には虫唾が走る人。それがビートルズとなれば、余計に背きたくなる。でも公開済みの予告編をチラ見しただけでも、オリジナル『LET IT BE』の暗いイメージが覆されるのは明らかで、かなり楽しみ。今にして思えば、『LET IT BE』はレコーディングのドキュメントというより、解散劇ありきの分裂プロセスを剥ぎ取った印象。メンバー間に多少のいがみ合いがあっても、一緒にプレイすれば楽しくなってしまう。それがミュージシャンの本質だし、ハイスクール時代から一緒に演ってきた仲間となれば尚更だ。そうでなけりゃ、あのルーフトップ・セッションなんて成立しないだろう。なのに今まで、影の部分ばかりが強調されてきた。いずれ時が過ぎて、『GET BACK』と『LET IT BE』がセットで冷静に語られるのが、一番の理想かもしれない。

さて、18日にステラ・マッカートニーがL.A.で開催した『GET BACK』上映イベントに、腹違いの弟ショーンと共に出席したジュリアン・レノン。「もう一度父親のことが好きになった」というコメントが発表されが、日本ではちょうど ジュリアンの84年のデビュー作『VALOTTE』が廉価再発されたばかりのタイミング。解散間際のビートルズ再検証だけでなく、“ジョンの息子” というレッテルに翻弄された彼についても、この際もっとシッカリ再評価するべきじゃないだろうか。

そりゃー声もルックスも歌い回しも、父親譲りですわ。全米トップ10入りしたデビュー曲<Valotte>も、『MIND GAMES』や『WALL AND BRIDGES』頃の作風に程近い。でもジュリアンとの契約を決めたカリスマ・レーベルのトニー・ストラットン・スミスは、ジュリアンの正体を知らずにデモ・テープを聴いたそう。大物フィル・ラモーンがプロデュースに就いたのは、ジュリアンの希望だったそうだ。

元々ビートルズ・ファンだったというラモーンも入魂で制作にあたり、彼がいつも使っているニューヨークとマッスル・ショールズで録音。N.Y.ではマーカス・ミラー、ラルフ・マクドナルド、マイケル・ブレッカー、ジョン・ファディス、トゥーツ・シールマンスらを起用。マッスル・ショールズではお馴染みのバリー・ベケットとデヴィッド・フッド、ロジャー・ホーキンスらが参加している。ホーン・アレンジはジェイムス・ブラウンにも関わったデヴィッド・マシューズ。面白いところでは、元ウイングスのスティーヴ・ホリー(ds)、デヴィッド・ボウイ・バンドのベース:カーマイン・ロジャース、シンガー・ソングライターのマーティン・ブライリーなども。それこそ、マッスル・ショールズゆかりのアルバムなんて事実は、あまり語られたコトがないのではないか。

ジョンの息子、という色眼鏡を外して聴けば、時代にマッチしたコンテンポラリー作品であると同時に、シッカリとポップ・ロックの歴史を踏まえた楽曲も入っている。さすがにジョンの有名曲を越えるようなコトはないけれど、今までのように、ジョンの看板でおおよその評価を定めてしまうのは正しくない。

実際、『THE SECRET VALUE OF DATDREAMING』(86年)や『MR. JORDAN』(89年)あたりでは、そうした重圧からの試行錯誤が続き、大きなヒットは生まれなかった。ボブ・エズリンが手掛けた『HELP YOURSELF』(91年)では、ジョージ・ハリスン参加の噂もあってか、<Saltwater>が全英6位に。でもジュリアンのシンガー・ソングライターとして底力は、むしろ表立った音楽活動から遠ざかっていく中で制作した『PHOTOGRAPH SMILE』(98年)や『EVERYTHING CHANGES』(11年)に顕著だと感じる。その後も、思い出したように作った楽曲をサブスクで公開しているが、そろそろ親父の呪縛から自分を解放して、ノビノビと音楽を創って欲しいところだ。

ちなみに、廉価再発つき、使用マスターは何と初CD化の88年のシロモノ。これでは2020年代の新品音楽ソフトとして及第点は上げられない。唯一、解説がビートルズ研究家:藤本国彦さん執筆のライナーに変わっているのが救いです。