ikumi_ulayasu (1)

40周年アニヴァーサリー・ライヴの映像作が出て、大きな盛り上がりを見せている角松敏生周辺だが、その角松のインスト代表曲<Sealine>で、イントロのリズム・ギターを弾いているのは誰かご存知だろうか? 実はそれは角松自身ではない。いまココに紹介するセッション・ギタリスト、幾見雅博なのだ。幾見は『SEA IS A LADY』のレコーディングに参加しただけでなく、その時に行われたインスト・ツアーにもサポート・ギタリストとして同行。調べてみると、その前の『T’S BALLAD』に新曲として収録された<Ramp In>や<Song For You>も、幾見さんがギターを弾いている。期間は短かったものの、角松のキャリアの重要ポイントで、角松を支えた職人ミュージシャンの一人なのだ。

その幾見雅博が83年に発表した1st ソロ・アルバム『ULAYASU』が、拙監修【Light Mellow's Choice】でしばらく振りに復刻された。え、しばらく振り? 初CD化じゃなく? そう思った人も多いだろう。自分も割と最近まで未CD化だと思っていたのだが、ご当人に聞いたところでは、87年に一度、別ジャケ・別タイトルでCDになっているそう。何でも、海洋スポットを紹介するTV番組『ときめきマリン』の音楽を幾見さんが担当していた時に、そのテーマ曲をフィーチャーした「便乗サウンドトラック商法」(本人命名)みたいな形で、こそっと世に出ていたそうだ。う〜ん、そんなの知らんがな…

そんなワケで、今回は幾見さん自身の監修の下、すべてをオリジナル・フォーマットに戻し、近年ホーム・レコーディングした曲(村上ポンタに捧げる P.O.N.)をボーナス追加した上でリイシュー。当時を知る人には、ようやく納得できるカタチになった。

プロフィールを簡単に紹介しておくと、幾見は1949年、静岡県富士宮市生まれ。大学に入ってすぐに頭角を現し、吉田拓郎がデビュー前に制作した非売品ソノ・シートでプロとしての初仕事。その後、原信夫とシャープス&フラッツに約4年在籍し、譜面読みから音楽理論、演奏の決まりごとや業界のしきたりなど、ありとあらゆることを学んだそうだ。22歳の頃、渡辺香津美と親しくなって2 GUITASというユニットを組み、一切のケンカもなしに5年間。しばたはつみや松山千春、小椋佳らのツアーに帯同したり、宮間利之とニューハード、高橋達也&東京ユニオンといったビッグ・バンドや、上田力&パワー・ステーションでもプレイした。レコーディングで参加したのは、美空ひばりに沢田研二、西城秀樹、ピンク・レディ、WINK、サーカス、所ジョージ、村田和人、中西保志、今井優子など。『宇宙戦艦ヤマト』のサウンドトラックにも参加したし、NHK『ポップジャム』では音楽監督を務めた。その後、CM音楽に軸足を移し、ニューヨークの人気アカペラ・グループ:ロッカペラのプロデュースを機に、国内の多くのアカペラ・グループに関わるように。最近は横山剣に近いソウル・シンガー:IKURAのプロデュースを手掛けている。

この『ULAYASU』は、今年3月に急逝した村上ポンタ秀一(ds)を筆頭に、高水健司/美久月千春(b)、島健(kyd)、ペッカー(perc)、渕野繁雄(sax)、マイク・ダン(vo)という豪華布陣。コーラスには山川恵津子、木戸泰弘、比山貴咏史、松木美音。ホーンには兼崎順一/武田和三(tr)らが呼ばれている。作曲はすべて幾見自身(作詞は別)で、どの曲もポップで明るく、メッチャ爽快。スターターの<Say, My Love>はギター版シャカタクだし、ホーンとコーラス入りの2曲目<Urayasu Seawind>は、高中正義の作風に通じている。この2曲はシングルにも切られ、A面曲<Say, My Love>の邦題は<哀愁の浦安>と名付けられた。そりゃアンタ、サンタナかッ

当時のアナログ盤のオビのキャッチーにも、“日本のL.A.浦安在住。哀愁のギタリスト、あの幾見雅博が遂にソロ・アルバムを完成” と謳われている。だから、浦安=URAYASUではなく、ULAYASU。“浦安は日本のL.A.だ”とブチ上げたのだ

他にもパラシュートのマイク・ダンが歌うグローヴァー・ワシントンJr.そっくりのAORチューンがあったり、愛娘のイメージで書いたメロウ・チューンがあったり。売れた!という話は全然聞かなかったが、音楽関係者やフュージョン・フリークの間ではすこぶる評判が良く、和製フュージョンの隠れた名盤として愛され続けてきた。とにかく、歌うようなギター・フレーズが心地良く、インスト・シティ・ポップという斬り口の方が実際の音にふさわしい感さえある。

角松好きはもちろん、松原正樹や今剛、芳野藤丸、松下誠、大村憲司、土方隆行、鳥山雄司といったスタジオ・ギタリストたちを愛でる人なら、間違いなく聴くべき一枚だ。