batti mamzelle

英国で活躍した中国系ジャマイカ人ベース奏者フィル・チェンの訃報をお知らせしたところで、先月、彼の人脈に近いところの こんなレアなアルバムが復刻されていたのを思い出した。バディ・マムゼルが74年にリリースしたワン&オンリーのアルバム『I SEE THE LIGHT』。韓国Big Pink制作の輸入盤国内仕様紙ジャケ。おそらく世界初CD化ではないかな?

フィル・チェンに近いというのは、ジェフ・ベック『BLOW BY BLOW』を筆頭に、リンダ・ルイスやゲイリー・ボイル、映画『TOMMY』サントラ盤、シャロン・フォレスターのアルバムなどで彼とコンピを組んだドラムのリチャード・ベイリーが、首謀者の一人となったバンドだから。プロデュースはリチャードの兄で、元オシビサのkyd奏者だったロバート・ベイリー。このアルバムが出たのは、リチャードがゴンザレスに参加して間もない頃だが、そうした移民系のバンドが続々登場したのは、オシビサの成功と、クリーム解散後のジンジャー・ベイカーがエアフォースを組んでアルバムを出したことで、アフリカン・ビートがロンドンのロック・シーンで急速に注目を集めたから。例えばジンジャーに近いスティーヴ・ウィンウッドイも、トラフィックにリーバップというガーナ人パーカッションを加えていた。

バディ・マムゼルのメンバー8人は、リチャード・ベイリー含め全員がカリブ海の島国トリニダード・トバコ出身。しかもそのうち3人がスティール・ドラム、1人がパーカッション奏者。つまりリチャードも入れると、8人中5人が打楽器奏者という超絶ユニークな編成になる。残りの3人は一緒にゴンザレスにも参加するウィンストン・ディランドロ(g,kyd)、ダダでエルキー・ブルックスと歌っていたジミー・チェンバース(vo)、そしてピーター・デュプリー(b)。チェンバースはロンドンビートやセントラル・ラインでも歌っていたが、エルキーのソロ作はもちろん、クリス・レアやコリン・ブランストーン、ロジャー・チャップマン、ジョン・マイルズ、ワム!、ポール・ヤング、ティナ・ターナーなどセッション歴も豊富だ。

そんな陣容だから、自ずとカリビアン・テイスト豊富なファンキー・ロック・アルバムになる。ベクトル的には当然サンタナにも近いが、やっぱりカリブっぽいというのが違うところ。フュージョン系だと、やはり同じルーツを持つラルフ・マクドナルドがニア・イコールな感じだが、バディ・マムゼルが何処かシリアスなのは、当時のロンドンの空気感からだろうか。後にベイリー兄弟は、ディランドロやスティール・パン奏者ミゲール・バラーダス、在英日本人ベーシストのクマ原田を迎えてブレックファースト・バンドを結成し、80年代にアルバム2枚を出するが、その実態はバディ・マムゼルとゴンザレスからの選抜隊であった。

リチャードがこのアルバムに参加した74年は、ジェフ・ベック『BLOW BY BLOW』の前年。当時17歳だったと言われる。それでもう『BLOW BY BLOW』と同質のグルーヴを繰り出しているのだから、これはもう驚異的。もしジェフ・ベックの存在を一旦脇に置いても、『BLOW BY BLOW』が楽しめそうと思うなら、このアルバムは必聴よ。