eric martin

年末にデスク周辺のCDの山を整理したところ、手に入れたまま放置プレイになっているブツが多数出てきた。リイシュー物だと中身を知っていてゲットするパターンが多いから、勢い後回しになりやすい。このエリック・マーティン 85年の1st ソロも、そんな感じ。オンタイムで聴いていたが、CDは持っていなかったので何処かのタイミングで…、と思ったまま幾年月。16年の再発は気づかずに見逃していたが、昨年秋に英Rock Candyでリマスター再発されたので、その機を捉えてゲットしていたのだ。

エリック・マーティンと言えば、まずはMr.BIGのシンガーとしてお馴染み。でもMr.BIGのデビュー(89年)以前から彼の存在を気にしていた人としては、これでようやく身を落ち着けられるバンドに出会えたな、と。かといってMr.BIGを熱心に追っていたワケではないんだけど。

最初は83年、ジャーニーの弟分として、自らの名前を掲げたエリック・マーティン・バンドでデビュー。このバンドはすぐにコケたが、このアルバムでソロ・デビュー。プロデュースは意外にもダニー・コーチマーで、Mr.BIGやジャーニーのようなアリーナ・ロックではなく、もっと骨太なウエストコースト・ロックに仕上がっている。リズム・セクションがベースのランディ・ジャクソン、スタン・リンチ(トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ) or リック・マロッタ、ジェリー・マロッタがドラム、キーボードにビル・ペインとポール・シェイファー、ギターにワディ・ワクテルとスティーブ・ルカサー(2曲)、サックスでアーニー・ワッツ、パーカッションのレニー・カストロなどが参加している。

ちょうどダニーはドン・ヘンリーの<Boys of Summer>でアタリを取った直後で、これから本格的にプロデュース業に乗り出していこう、というタイミング。新人ながら実力が認められているエリックのプロデュースは、その試金石でもあった違いない。事実、ポール・ブリスとクリス・トンプソンの共作<Secrets In The Dark>とか、マイケル・ボルトンが提供した<Can't Hold On, Can't Let Go>とか、若干売れセン狙いのポップ・ロック路線は悪くない。ニール・ショーンもギターこそ弾いていないが、2曲ほど共作者として名を連ねている。もともとジャーニーの弟分だから、ニールはその後もエリックに目を掛け、この辺りの共作曲をサントラに提供。それがこのソロ・デビューに繋がったらしい。

でも何処か一本調子なんだよなぁ。エリックのその後を知っていると、余計にそう感じてしまう。これはエリックの問題ではなく、ダニー・コーチマーのプロダクツが新人エリックの可能性を引き出し切れていなかったのでは? エリックは後年ヴァン・ヘイレンにも誘わわれたそうだが、そういう疾走感のあるハード・ロック・スタイルも、アコースティックなバラードもイケるような、ヴァーサタイルなヴォーカル・スキルを持っていて、圧倒的な個性はないものの、その分柔軟に歌える。でもコーチマーはそれを活かせず、70's的なウエストコースト・ロックを80'sサウンドに寄せて、ポップ・テイストを加味したような手法。E.ストリート・バンドのスティーヴン・ヴァン・ザントのソロ作から1曲カヴァーを持ってきて、アーニー・ワッツにコラレンス・クレモンズ張りのサックスを吹かせる辺り、ちょっと違うんじゃない?と思ってしまう。<Eyes Of The World>の軽快なシャッフルも、あぁ、クレランスとジャクソン・ブラウン共演による<Friends Of MIne>みたいだし。

でも、それぞれの楽曲は全然悪くない。ブルース・スプリングスティーン狙いでも、ジャーニー狙いでも…。ただアルバム通して聴いた時に、サウンドとかテンポ感のヴァリエーションの幅が狭い、そこが問題。いわゆるスロウ系がラストのバラード<Just One Night>1曲しかないし、逆にスピードのあるトラックもない。プロデューサーとしてのコーチマーは自分の型を持っているタイプで、その分あまり融通が利かない。そういう意味では、果たしてエリックにフィットしていたかどうか…。それでもデビュー・アルバムだから、注目の人にプロデュースしてもらうメリットは大きく、<Information>が全米トップ100入り(最高87位)している。でもコレも、ブルースが歌った方がもっとカッコよくなるんじゃない?というパターンで…。

その後間もなくエリックは、TOTOのリード・シンガー候補に名前が上がり、オーディションではメンバーと旧知のジョセフ・ウィリアムスと共に最終選考まで残ったらしい。このアルバムに参加したルカサーとデヴィッド・ペイチが推してくれたらしいが、セッション後の酒席で失態を演じ、バンドのまとめ役ジェフ・ポーカロからNGを出された、なんて話がある。ジョセフはこの時のことを、「ロックン・ロールを歌わせたらエリックには敵わない」と言っているが、確かにエリックとTOTOの相性は悪くなさそうだった。

結局ソロ活動を続けることになっての2作目『I'M ONLY FOOLING MYSELF』は、リッチー・ジトーのプロデュースによる力作。方向性も定まってきた感があった。でもセールスは惨敗。エリック自身も曲作りに絡めず、不満が残る作品になってしまった。そして結局は、満を辞してのMr.BIG結成へ。その後はご存知の通りである。ただグループがバラけてからは、B'zのギタリスト:松本孝弘と共演したり、邦楽カヴァー集を出すなど、ジャパン・マネーを頼りに再び迷走している感あり。ロック・シンガーといっても丁寧に歌い込むタイプなので、良いプロダクツに恵まれれば必ず光るハズなのだが…。そうした点では、ゼロ年代中盤に声が掛かったというフォリナーに参加していたら、新たな道が拓けていたかも、なんて思ってしまうな。